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【新連載】法律家の目で ニュースを読み解く!(1)

法律家の目で ニュースを読み解く! 意外と知らない? 司法の落とし穴とは

意外と知らない? 司法の落とし穴とは

私たちの日常生活は、目に見えないさまざまな法律によって守られている。しかし法律というのは、もろ刃の剣のようなもの。ひとたび何かボタンの掛け違いが生じると、この法律に罪なくして裁かれるという事態が発生しうる。それが「冤罪えんざい」だ。

冤罪と聞いても、それを自分の身近で経験したことがなければ、まるで映画の中の出来事のように思えるが、何をきっかけにこの法の落とし穴が生じるのか? さらに、法律があるのに解決が容易ではない「犯罪」とは何か? このシリーズでは、元検察官で、大手事務所にも勤務経験があり、現在はグローバル企業で法務部長を務める三上誠さんにご協力いただき、一般に報道されているニュースを読み解きながら、意外と知られていない、そして私たちが知っておくべき法律知識について紹介する。

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

――法律は本来「私たち市民を守るためにある」はず。しかしその法律でひどい目に遭うことがあります。わかりやすい事例を挙げていただけますか?

最もわかりやすい例としては痴漢の冤罪事件があります。このほかにも、性犯罪に関連する事例は実はとても多いです。性犯罪は密室で起こることが多く、お互いの証言しか証拠がないので、どちらが正しいかを判断するのが難しいということが大きな原因です。この場合、「痴漢被害に遭った」と申告する被害者女性の方に警察官も検察官も裁判官も同情し、そちらをほぼ無条件に一方的に信用する傾向が強いというのが実情です。マスコミも同様。もちろん性犯罪は憎むべき犯罪ですが、一方で性犯罪をねつ造して男性側を陥れることも容易にできるという危険な側面があります。

ひどい事例の1つとして有名なのが「沖田事件」。電車の中で携帯電話で大声でしゃべっている女子高生を注意した男性に対し、その女子高生が腹いせに「この人痴漢です!」と訴えたというもので、警察官は女子高生の言い分を信じて男性を逮捕しました。沖田事件は幸い不起訴となりましたが、実際にはこのような状況でも起訴されてしまったら、無罪を勝ち取るのは極めて困難です。
 

――冤罪はなぜ起こってしまうのでしょうか?

冤罪が起こる原因はいくつかあります。類型的には、過酷な取り調べによる自白の強要、自白・証言に対する過度の信用、科学的証拠の評価ミスなどがあります。

自白の強要で冤罪となった有名な事件が志布志しぶし事件です。これは公職選挙法違反の事件ですが、「容疑を認めなければお前の家族も全員まとめて逮捕する」などと警察官が自白を強要したことが明らかになっています。

科学的証拠の評価ミスとしては、過去のものではDNA鑑定の結果を過度に信頼した事件として足利事件があります。このときのDNA鑑定の精度は「1000分の1~2くらいで同一人物」というものでしたが、これが決め手の1つになってしまいました。つまり、当時人口約17万人の足利市内で1000人に1人、2000人いたら2人はそれらしい人がいたわけで、間違いが起こって当たり前でした。現在ではDNA鑑定は4兆7000億人に1人くらいの確率で同一性が確保されています。最近では防犯カメラの映像から犯人を特定するケースで、誤りが起こることが多いです。
 

――冤罪被害はどうしたら防ぐことができるのでしょうか?

日本における有罪率は現在99.8%と言われています。つまり、逮捕され起訴されたら99.8%は有罪になるということです。検察官はこの有罪率の高さを守らないといけないという意識が強いため、ひとたび冤罪容疑をかけられてしまった場合、そうだと思って対峙する必要があります。また、検察官による証拠の捏造ねつぞうはさすがに珍しいですが、警察官による証拠の捏造は実はさほど珍しくありません。裁判官は「犯人に騙されないぞ」という意識が強く、同じ公務員である検察官との連帯意識も強い。このため、裁判官に冤罪を見抜く公正さを期待できるかというとこれも難しいです。また有罪率99.8%からも分かる通り、起訴に対して無罪を出す方がむしろ勇気がいり、どちらか判断が難しい場合は「有罪」を出す方に判断が傾きやすいのも事実。特に選択肢として執行猶予付の有罪判決を選択できる場合は、このような心理が働きやすいと言われています。

身もふたもない話ですが、自分が冤罪に巻き込まれないためには、まずは逮捕されない、起訴されないことが大事。そのためには、日ごろからリスクのあるポイントを知っておくことが重要です。たとえば、痴漢冤罪被害に遭わないためには、満員電車に乗らないこと。やむを得ず乗る際にも、絶対に痴漢と誤解されないよう気を配るような気遣いが必要です。
 

――「法律は本来、私たち市民を守るためにある」わけではないのでしょうか?

法律を作る権限、すなわち立法権が本来的には私たち市民の手中にあり、それを私たちの代表である国会議員を通して実現するというプロセスが日本の憲法には規定されています。しかし、国によってはこのようなプロセスがそもそもなく、立法権が市民に留保されていないところもたくさんあり、そのような国では法律が自分を守ってくれるとは限りません。

また日本においても、裁判所は政府から独立して存在できるように憲法に書き込まれていますが万全とは言えません。裁判所が政府や世論の影響を受けた判決を下すこともあるので、このような事態が起きないよう不断に監視する仕組みが必要となります。それを支えるのが情報公開制度やマスメディアの存在ですが、その水準も国によってまちまちです。
 

――司法制度をどのように認識し、弁護士と付き合っていくべきなのでしょうか?

自分自身が何らかの訴訟に巻き込まれたり、司法に携わる経験をしていない場合、日本人は警察官や検察官、裁判官、そしてマスコミを圧倒的に信頼しているケースが多いですね。警察官の関心事は自白を取ることで、検察官の関心事は有罪率を維持すること、そして裁判官は自分のキャリアに傷をつけることを極端に嫌う、といった事実があまり知られていません。そしてマスコミは、こと事件報道に関してはしっかりと確かめることもせずに情報を流し、誤報であっても訂正することはまれです。最近のケースで言えば、高畑裕太さんに関する報道は、有名俳優の事件であることを差し引いてもかなり酷かった。「捜査関係者」というあいまいな情報源からの情報が垂れ流しにされていました。

こういった事態を見ても分かるように、実際に裁判になった時に味方になってくれるのは家族や友人を除いては弁護士だけです。このため、日ごろから弁護士とはよく付き合っておいた方がいいと思います。なぜなら、いざというときに自分のために真摯に対応してくれる人でないと困るからです。また世の中で大きく報道されている事件に関しても、マスコミやインターネットの情報を鵜呑みにせず、信頼できる弁護士の意見を聞くことで見方が変わることも多いと思います。一般市民がもっと弁護士を利用し、日頃からさまざまな情報と付き合って知見を深め、自身が何らかの事件に巻き込まれた際にも、きちんと対峙できることが理想です。

 

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