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アルツハイマー病の新たな治療法に期待 光触媒の開発に成功

アルツハイマー病の新たな治療法に期待 光触媒の開発に成功

東京大学大学院薬学系研究科の金井かないもとむ教授らは、近赤外光を当てることでマウス脳内のアミロイドβペプチド(Αβ)の凝集体を減らす、光触媒の開発に成功した。これは、アルツハイマー病の新しい治療法につながると期待される。米科学誌「ケム」電子版で16日に発表された。

認知機能の低下を主な症状とするアルツハイマー病は、Αβの凝集体が神経細胞を傷つけることで起きると考えられている。このため金井教授らは、Αβの凝集体ができるのを阻害すれば治療につながると考え、これまでにもΑβの凝集を阻害する光触媒を開発してきた。しかし、従来のものは短波長の光が必要で、短波長の光は生体組織を傷つけてしまう上に、生体内への透過性が低いという問題があった。

今回、ウコンに含まれるクルクミンの構造を基に、生体組織への透過性が高い近赤外光を当てることで、Αβと結合しやすい酸素を効率的に生み出す光触媒を開発した。この光触媒は細胞が生きたままで機能し、Αβ凝集体によって神経細胞が傷つくのを減らすことができる。また、マウスの皮膚を透過した近赤外光によって光触媒が活性化し、皮下に存在したΑβの凝集を抑えることもできるという。さらに、アルツハイマー病モデルマウスの脳内に触媒を投与し、近赤外光を当てることで、脳内のΑβ凝集体の量が約半分と顕著に減少することも明らかとなった。

今後、マウス体内でこの光触媒を用いてアルツハイマー病に特有の症状が改善するかなどを調べていく。同時に、触媒を経口投与できるようにするなど、医薬品として適した形への改良を進める。触媒反応を用いた新しいアルツハイマー病の治療法を展開できれば、糖尿病のようにたんぱく質の凝集が原因で引き起こされるほかの疾患でも、触媒自体を医薬品として用いる新しい治療法が適用できる可能性がある。

画像提供:科学技術振興機構