プログラミング教育とエンジニア育成の未来

2021年は9月にデジタル庁が創設され、10月10日と11日が「デジタルの日」とされるなど、国を挙げてデジタル化に向けて大きく漕ぎ出した年になりました。今後、プログラミング教育や、それによって育成された専門人材の行く末はどうなっていくのでしょうか? 現役のエンジニアでもあるNEWS SALT記者・宮永龍樹と、プログラミング教室を経営する吉金丈典さん、教育ライター・田中陽子の3人が鼎談しました。

実は多様にある、エンジニアの活動範囲

田中:まず言葉の定義から入りたいのですが、「プログラミング」や「エンジニア」と一口に言っても、おそらくいろいろな分類がありますよね。私のような文系人間は全てを一緒くたに捉えてしまいがちですが、どういった種類があるのでしょうか?

宮永:私が今まで携わってきたソフトウェア開発においては、大体以下の4つに分類できます。

  1. WEB・モバイル系
  • WEBブラウザやモバイル機器上で動くソフトウェア
  • 開発言語:HTML、PHP、Java、Rubyなど
  1. オープン系
  • UNIXベースやWINDOWSベースで構築された開発環境の中での、業務系アプリケーション(会計・経理、勤怠・スケジュール、販売管理などのアプリケーションが多い)
  • 開発言語:Java、PHP、VB、Cなど
  1. 汎用機系
  • 金融機関などで用いられる大型汎用機のシステム
  • 開発言語:COBOL、Cなど
  1. 組み込み・ファームウェア・制御系
  • 家電・自動車・情報機器・工作機械にあらかじめ組み込んで搭載されるソフトウェア
  • 開発言語:C、アセンブラなど

宮永:私自身は組み込み系のソフトウェア技術者で、現在はIoTによる遠隔監視のシステムを扱っています。

田中:プログラミングというと、スマホアプリやホームページ開発に必要な技術というイメージが強いように思いましたが、言われてみれば、銀行のATMや家電製品などにもプログラムが組み込まれていますよね。エンジニアは、それぞれの分野に必要なスキルを習得して、その開発に携わっているわけですね。

スキルと実績が問われるエンジニア

田中:情報化社会において、その技術開発を担うエンジニアという職種は、どの業界でも引く手あまたかと思います。エンジニアとして現場で仕事をされている宮永さんから見て、実際に採用は活況なのでしょうか?

宮永:今はIT人材不足が叫ばれていますから、エンジニアを目指す若い人は増えていってほしいと思います。しかし、若い人の多くが資格取得に走る一方で、実社会や開発の現場では職歴の方が重視されている現状があります。つまり、いくら情報系の資格を取っても、必ずしも就職の際に役に立つとは言えないのです。

私も仕事をしていて感じますが、座学と実務にはどうしても乖離があります。もちろん理論を習得することも大事なのですが、実際にビジネスの現場でそれを活用・応用できるか、さらにプロジェクトを進行するためには、他者と協力する力といったソフトスキルも求められるため、資格を持っていても実績がなければ採用されないのが現実です。

田中:このご時世、情報系の資格を取れば前途洋々かと思いきや、実際はそういうわけでもないのですね……。

デジタル化は多様な才能の受け皿となるか

田中:資格とはやや異なりますが、高校では来年2022年4月から、「情報科」の教科が必修になります。また大学入学共通テストには、2025年から「情報」の教科が新設される予定で、今の中学3年生が初めて受験することになります。

こうした教育がエンジニアやITに強い人材の育成に寄与することが期待されますが、プログラミング教室を経営されている吉金さんはどう捉えていますか?

吉金:私が教室の子どもたち(小中学生)を見ていて感じるのは、おもしろそうにプログラムを動かしてはいますが、それが将来の夢にはつながっていないということです。適性のある子はエンジニアの道を目指しても良いと思うのですが、保護者世代が理系の素養がなかったりすると、そちらへの志向が制限されてしまいがちなんですね。エンジニアやIT系というのは、良くも悪くも「新しい職業」というイメージがあり、親世代にはややハードルが高いのかもしれません。

一方で、いじめや引きこもりといった問題を抱える子どもが、図らずもプログラミング教室で才能を開花させるケースもあります。これは、従来は「問題児」などとされていた、いわゆる「尖っている」子どもがその能力を見出され、社会と通じる機会を得ることにつながるのではないかと考えています。

社会では、AI(人工知能)の普及によってこれまで人間がしていた仕事をAIが取って代わり、その結果、さまざまな職業がなくなると騒がれますが、一方でこれから新しく生まれる職業は、今までマイノリティーだった人が活躍できる可能性を多分に含んでいると思います。

田中:D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の観点でも、エンジニアという職業には期待が高まります。日本の学校教育制度は画一的と言われますから、プログラミング教育を通して一人ひとりの多様な資質・才能をどれだけ引き出すことができるのか、注視していきたいと思います。

(写真はイメージ)