
量子コンピューターの課題「ノイズ」を研究に生かす 発想を転換する新チップ
スウェーデンのKTH王立工科大学の研究チームは、量子コンピューターで起こる情報の損失やノイズの影響を再現できるフォトニックチップを開発した。実際の量子コンピューターに近い環境で実験を行えるため、ノイズへの耐性や誤り訂正技術を効率よく検証できるという。研究成果は国際学術誌『Nature Communications』に掲載された。
量子コンピューターは、従来のコンピューターでは難しい計算を高速に処理できる可能性を持つ一方で、「ノイズ」と呼ばれる乱れの影響を受けやすいという課題がある。量子ビットは非常に繊細で、周囲の環境や他の量子ビットとの相互作用などによって状態が乱れると、計算結果に誤りが生じやすくなる。このため、世界中の研究者がノイズの影響をできるだけ抑える技術の開発に取り組んできた。
今回の研究の特徴は、ノイズを単に排除すべきものと考えるのではなく、研究に活用する対象へと発想を転換した点にある。開発されたチップは、実際の量子コンピューターで起こるノイズや情報の損失を再現・制御できるため、現実に近い条件で誤り訂正技術などを検証できる。量子コンピューターそのものの性能を向上させたわけではないが、実用化に向けた研究開発を効率化する基盤技術として期待される。
今後、このような実験基盤が広く活用されれば、より信頼性の高い量子コンピューターの開発が進む可能性がある。科学の世界では、かつて邪魔者と考えられていた現象が、のちに研究に活用される例もある。例えば、かつて実験の妨げと考えられていた宇宙線は、現在では宇宙の研究や、そこから生じるミュー粒子を利用した地球内部の探査などに役立てられている。今回の研究も、課題そのものを研究の力へと変える発想が、量子コンピューター実用化への一歩につながるか注目される。
写真提供:KTH王立工科大学

