
地球の磁場で「見えない物質」を探す 暗黒物質探索に新たな手法
宇宙には、私たちが知っている物質だけでは説明できない重力の働きがあり、それを担う「暗黒物質」の存在が考えられている。暗黒物質は光を出したり反射したりしないため、直接捉えることが難しいが、その正体を突き止めるべく、地球を取り巻く磁場を「検出器」として利用するユニークな研究が進められている。京都大学、広島大学、日本大学などの研究チームは英国地質調査所が公開する約10年分の地磁気データを解析し、暗黒物質の候補である「ダークフォトン」と「アクシオン」が残す可能性のある微かな信号を調べた。
暗黒光子「ダークフォトン」の探索で世界最高水準の感度を達成
暗黒物質の候補の一つであるダークフォトン(暗黒光子)は、通常の光子と非常に弱く相互作用すると考えられており、その存在によって地磁気に周期的な微弱な変化が生じる可能性がある。研究チームは英国地質調査所が公開する2012年9月から2022年11月までの約10年分の地磁気データを解析した。その結果、幅広い質量範囲で、これまでの地上観測よりも高い精度でダークフォトンの存在を調べることができ、地上での直接探索として世界最高水準の感度を達成した。また、ダークフォトンに由来する可能性のある信号も複数見つかった。ただし、これらが実際にダークフォトンによるものかどうかは、まだ確認されていない。この成果は2026年5月11日、米国の学術誌「Physical Review D」に掲載された。
「アクシオン」の探索:理論予測からデータ解析へ
もう一つの候補である「アクシオン」については、地球の磁場との相互作用によって生じる電磁波を予測する理論モデルを構築し、5月23日、日本の学術誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics(PTEP)」で発表。6月8日には、その予測をもとに地磁気データを解析した続報が同誌に掲載された。解析ではアクシオン由来の可能性がある65個の持続的な信号候補が見つかったが、それがアクシオンによるものなのか、別の原因によるものなのかは判別できなかった。一方、候補が見つからなかった周波数では、アクシオンと光子がどの程度の強さで相互作用する可能性があるのかを、従来より詳しく絞り込むことができた。
身近な地磁気データを活用した新たなアプローチ
今回の研究の特徴は、大型加速器や専用の検出器を新たに建設するのではなく、地球の磁場と長期間の観測データを暗黒物質探索に利用したことにある。特にアクシオンでは、地球と電離層の間が電磁波の「共鳴器」のように働き、特定の周波数で信号が強まる可能性がある。まだ暗黒物質そのものを発見したわけではないが、こうした観測によって未知の粒子が取り得る性質を絞り込むことは、その正体に迫る上で重要だ。身近な地球の磁場を利用して宇宙の謎に迫る、新たな探索手法として注目される。

画像提供:京大(冒頭の写真はイメージ)

