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ベーシックインカム制度は未来社会のモデルとなるか?【ニュースコトバ解説】

ベーシックインカム制度はアフターコロナ社会で導入が進むのか 【ニュースのコトバ解説】

新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、先だってスペインでは、低所得者に対する給付制度を導入すると発表されました。日本でも現金一律10万円の給付を含めた補正予算案が国会で審議されています。机上の空論ではないかと言われてきた「ベーシックインカム制度」とは何か、新型コロナの影響を受けて各国で制度導入が進むのか、検証していきます。

ベーシックインカム制度

ベーシックインカム(Basic Income)とは、国民の最低限の生活を保障するために、所得や資産によらず全員一律に一定の金額を給付する制度のこと。

 

ベーシックインカムの実証実験

ベーシックインカムの考え方は、18世紀頃から様々な形で提唱されてきました。最近の事例や、実証実験を紹介します。

フィンランド政府は2017年、失業者を対象に実証実験を行いました。ランダムに選ばれた2000人の失業者に毎月560ユーロ(約7万円)を支給し、雇用や所得、健康や幸福度を調査しました。失業手当と違い収入が増えても減額されないため、働く意欲が促進されるのではと予想されました。結果、雇用の促進には効果は見られませんでしたが、健康や幸福度、ストレス低減の効果がありました。

アメリカのアラスカ州では、石油の収入を財源とする定額の給付が行われています。金額は小さく年間1000~2000ドル程度ですが、出生率が増加したという報告もあります。

その他、オランダ、カナダのほか、民間の寄付による実証実験も行われています。しかし、財源等の問題で難航しているのが現実でした。スイスでは2016年に世界で初めて、ベーシックインカム導入の国民投票が行われましたが、反対8割で否決されています。
 

AI社会とベーシックインカム

AI(人工知能)やロボットなどの技術革新である第四次産業革命よる社会経済に対する影響として、二つの側面が議論されてきました。一つは、労働生産性が飛躍的に向上し人間の生活を豊かにするというプラスの面。一方では、AIやロボットにより仕事が奪われることによって失業者が増加し、所得格差が広がるというマイナスの面です。このマイナス面に対し、広く最低限の生活を保障する枠組みとしてベーシックインカムが注目されてきました。
 

ベーシックインカムのメリットとデメリット

ベーシックインカムの導入メリットとしては、様々な行政コストが削減できることがあります。支給対象の判別や申請の業務負荷だけではなく、支給者の心理的負担や受給者の恥(スティグマ)といった感情を低減することにも効果があります。また、AIにより少ない生産コストや労働力で社会が維持できるようになることと合わせて、自由に生きたい人生を選択することを後押しし、人間本来の生き方ができるという提起もあります。

デメリットとしては、就労意欲の低下が挙げられます。高所得者にも同じく配分されるため、所得再分配機能が低下します。また、生活保護、失業給付、年金や子供手当等がベーシックインカムの財源に充てられる場合、将来のための備えや管理を自分で行う必要があります。財源確保の問題は大きく、日本では月5万円給付とした場合、60兆円もの財源が必要になります。これは現在の社会保障支出の約2倍に該当する規模です。
 

メリット デメリット
・小さな政府、行政コストの削減
・生活の不安から解放し、自由な人生の選択、起業や自由な開発を後押し
・少子化対策、地方の活性化
・社会保障を受ける人の恥(スティグマ)の解消
・就労意欲の低下
・大規模な財源が必要となる
・将来の人生管理を自分で行う必要がある
・所得の再分配機能が低下(高所得者にも同じく配分される)

 

アフターコロナ社会はベーシックインカムを受け入れるか?

新型コロナウィルスの問題により、一時的に導入されようとしているベーシックインカム制度。アフターコロナ社会も、グローバル化したウィルスの問題と同様に、いつどの地域の対立や問題が世界に影響するかわからない不確実性と向き合っていかなくてはいけないでしょう。先述したAIなど新技術による発展ゆえの変化の必要性というジレンマに立たされている人類は、どのように持続可能な社会を維持していくのか、社会の仕組みが変わる転機となるのでしょうか。

(写真はイメージ)