必修化から1年、プログラミング教育の今とこれから【前編】

必修化から1年、プログラミング教育の今とこれから【前編】

小学校でプログラミング教育が必修化されてから、1年が経とうとしています。プログラミングが導入された教育現場では今何が起こっているのか、それに対して私たち大人には何ができるのか――。プログラミング教室を運営する吉金さんにお聞きしました。

インタビュイー:吉金丈典よしかねたけのり
大阪大学・基礎工学部・博士前期課程卒業後、大手電機メーカーに8年間勤務したのち、そろばんLABO芽育を開校。小中学生10人以上の有段者を育てた実績を持つ。2018年より小学生向けのプログラミング教育にも取り組む。

インタビュアー:田中陽子(教育ライター)

私たちの身近にあるプログラミング

田中:プログラミング教育のお話に入る前に、プログラミング教育を受けてこなかった大人たちには、「そもそもプログラミングって何?」という人も多いと思います。しかし実は、プログラミングは私たちのごく身近に使われているものだと聞きます。具体的にどのようなものがありますか?

吉金:まず初めに、プログラムとは何か、二つの例を挙げてお話しましょう。例えば、運動会を行うときには進行表というものを作りますよね。始めに開会の挨拶があり、準備運動をして各種目が進行し、クライマックスがクラス対抗リレー、最後に閉会の挨拶をして終わる、といった具合に順番を決めます。挨拶も準備体操も無く、いきなり「よーいドン!」となったら運動会が無茶苦茶になってしまいます。このように、必要な動作を適切に、順番どおり行っていくためにあるのがプログラムです。

もう一つの例は、すごろくです。スタート地点に立って、サイコロを振り、出た目の数だけ進むというのが基本ルールです。各地点での指示に従って、さまざまなアクションをする形式のものもありますね。このように、プログラムの作成者が何もしなくても、指示通りに勝手にまわっていくものもプログラムといいます。

小学校のプログラミング授業の現場

田中:つまり、ふさわしい順番に組まれたものや、作成者の意図通りに自動的に動くものがプログラムであり、それを作ることが「プログラミング」というわけですね。さてこのプログラミングが、昨年4月から小学校で必修となりました。今学校では、どのような授業をされているのですか?

吉金:誤解されがちなのですが、国語や算数と同じように「プログラミング」という科目が設けられているのではありません。社会科・音楽科・家庭科など各教科のテーマに沿って、授業の一部にプログラミング学習が組み込まれています。

例えば、小学6年生の家庭科では、自動炊飯器がどのような働きをしているのかをプログラミングで実現します。実際にお米を炊く工程を話し合い、その流れをプログラミングし、想定した動作と一致するかを確認することで、プログラミング体験も同時にしようという試みです。

またプログラミングと言っても、アルファベットだらけのコードを書くのではありません。小学校の段階では、「Scratch(スクラッチ)」というビジュアルプログラミング言語を使用することが多いです。これはパズルのように、カラフルなブロックを操作してプログラムを作成するものです。

この他にも、パソコンなどの端末を使わずにできるプログラミングもあります。子どもの知育玩具としても人気のレゴブロックも実はこれに該当するもので、小学校低学年でも取り組めるものです。これらは電源プラグに繋がないという意味で、「アンプラグドプログラミング」と呼ばれています。

ビジュアルプログラミングScratchは、コードを使わずにプログラミングが体験できる。

プログラミング教育で何が得られる?

田中:プログラミングというと、真っ黒の画面に英数字がいっぱい並んでいるような難解なイメージがありましたが、さまざまな形式のものがあるのですね。ただこうした教育を通して、子どもたち皆がプログラマーになるわけではないかと思います。プログラミング教育の目的はどういったところにあるのでしょうか?

吉金:今は「Society 5.0*」と言われるように、超スマート社会が到来しています。そこでこれからの社会を担う子どもたちは、身近にあるコンピュータを活用するために、その仕組みを理解し、情報活用能力を備えることが求められます。

プログラミングを学ぶことを通して、子どもの思考力や判断力・表現力、いわゆる「プログラミング的思考」を育む目的があります。また、意図したことを実現するためにはどのような動きの組み合わせが必要で、一つ一つの動きに対応した記号をどのように組み合わせるべきか、といった論理的思考力を養います。さらに、プログラミングを通して各教科の理解を助けるといった副次的な目的もあります。

小学校の授業では、プログラミングの「技術」を身につけることよりは、児童自身がプログラミングを「楽しむ姿勢」を持てるようにすることを重視しています。まずはプログラミングやデジタル機器に親しみ、それを通してプログラミングの技術や各教科の勉強が自然に身に付くことを狙いとしています。

これは私も教室で教えていて感じることですが、子どもを教える時には何はなくとも、とにかく楽しくやらないと授業が成り立ちません。忍耐や訓練だけの上に成り立つ勉強というのは、得るものも限られるのではないかと思っていて、子ども達が楽しみややりがいを感じながら、学びに向かう力を育てていければと考えています。

*Society 5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの。

後編に続く

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