原発事故から10年「安全なら安心か?」放射線被ばくの観点から考える

NEWS SALTでは3月6日、オンラインセミナー「安全なら安心か? ~放射線被ばくの観点から考える~」を開催した。講師は、医学物理・原子力の応用研究に従事する矢野和治氏。東日本大震災による福島第一原子力発電所事故から10年経っても未だに残る放射能について、解説していただいた。

基準超セシウムの魚は危険?

2021年2月22日、福島県沖の試験操業で水揚げされたクロソイから、国の基準値(1kg当たり100ベクレル)を超える500ベクレルの放射性セシウムを検出し、出荷を停止したというニュースが報じられた。基準値を超える放射性物質が試験操業で取れた魚から検出されたのは、2019年1月以来約2年ぶりのことだった。

この報道を見て、消費者はどのように感じるだろうか。「福島県沖で取れた他の魚は食べても問題ないのか?」「放射性物質が含まれていても、基準値以下ならば安心して食べられる?」「海外も含め他の産地の食品ならば安全なのか?」考え出すとさまざまな疑問が湧いてくるのではないだろうか。

放射線被ばくを正しく知る

放射線被ばくには、内部被ばくと外部被ばくがある。内部被ばくは、放射性物質を含む空気を吸引したり食べ物を摂取したりすることで、体内で被ばくすること。外部被ばくは、放射線を体の外から浴びること。いずれも放射線によってDNAが破壊され、がんや臓器障害を引き起こすリスクがある。放射線を浴びたからといって必ず健康被害が出るわけではないが、可能性はゼロではない。

しかし私たちは、日常生活の中でも被ばくしている。宇宙や大地から発せられた自然放射線、さらにレントゲンやCTなど医療行為による外部被ばくがある。また食品に含まれる微量の放射性物質を摂取することで被ばくするだけでなく、私たちの体内にも放射性物質が含まれており、常に内部被ばくしているのだ。日本人の平均被ばく線量は、年間約6mSv(ミリシーベルト)と言われる。

本来、DNAには修復機能があるため、こうした自然放射線による被ばく程度では問題ないが、一度に大量の放射線を浴びたり継続的に被ばくをしたりすると、DNAの修復が間に合わず、健康被害が生じてしまうのだ。

これに対し、先のクロソイから検出された「1kg当たり500ベクレル」というのは、どのくらいの線量だろうか。計算してみると、以下の通り0.0065mSvとなる。

年間の平均被ばく線量の約0.1%で、さらにこれは摂取してから50年間かけて被ばくする総量なのだという。

また、がんによる死亡率を見てみると、日本人の発がんによる死亡率は約30%で、これは個人の生活習慣などによるものだ。一方で、長期的に放射線を浴びた場合のがん死亡増加率は、自然放射線による被ばくを除いて+100mSvで+0.5%とかなり低い。しかもこの0.5%が即座にがんになるわけではなく、潜在期間は数十年と言われている。

こうして見ると、クロソイから検出された放射線量は、すぐさま人体に影響を与えるほどのものではないとわかる。しかし、このように科学的には安全と証明された物を、「食べても大丈夫」と安心して食べられるか否かは、人それぞれだろう。なぜかといえば、「安全」は科学的評価で決まる客観的な指標に対し、「安心」は心理的・主観的なものだからだ。

真の安心を求めて

昨今の科学の発展によって、以前はわからなかったものが明らかになっている。震災後から実施されるようになった食品の放射性物質の検査もその一つだ。そうして明らかになった情報を、私たち消費者がどのように利活用し判断するかが問われている。

人は不安定な情勢の中においては、「これは危険」「これは絶対安全」などと断定された情報に頼りたくなるものだ。しかし、科学にゼロリスクはない。「50年後のがんによる死亡率が0.5%増加する可能性がある」といった情報をどう受け取るかーー。10年経っても消えない放射能を通して、「安全」と「安心」について深く考えるきっかけとなった。

(冒頭の写真はイメージ)