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高校で「情報Ⅰ」必修化など教育のデジタル化で社会はどう変わる?【前編】

2022年度から高校の学習指導要領が改定され、「情報Ⅰ」という必修科目ができます。実際にどのようなことを学ぶのか、それを学んだ人たちが社会人になる8年後を見据えて、大人たちは何をすべきか、プログラミング教室を運営する吉金さんにお聞きしました。

インタビュイー:吉金丈典よしかねたけのり
大阪大学・基礎工学部・博士前期課程卒業後、大手電機メーカーに8年間勤務したのち、そろばんLABO芽育を開校。小中学生10人以上の有段者を育てた実績を持つ。2018年より小学生向けのプログラミング教育にも取り組む。

インタビュアー:田中陽子(教育ライター)

 

田中:小学校のプログラミング教育に加えて、高校でも来年から「情報」が必修化されます。どのような社会背景や狙いがあるのでしょうか?

吉金:教育のデジタル化の背景は、大きく三つあると思います。一つは、社会の情報化の急速な進展があげられます。情報化やグローバル化という社会的変化が予測を超えたスピードで進展しており、これらに対応するには、情報・情報技術を受け身でとらえるのではなく、主体的に選択し、活用する力が必須となります。

二つ目は、少子高齢化の進行をICTAI・ロボティクスで補おうとしている日本社会に対応できる人材が不足しており、これを育成する必要があること。

そして三つ目は、スマホやSNSの急速な普及によるコミュニケーション格差・情報格差によるトラブルの増大に対応すべく、安全な情報・情報技術の活用のための情報モラルを身に着ける必要があることです。

田中:「VUCA(ブーカ)*の時代」と言われて久しいですが、不確実で答えのない時代に、問題の発見・解決に向けて、情報・情報技術を適切かつ効果的に活用するための知識・技能を身に付け、実際に活用する力を養うことが求められますね。

実際に「情報Ⅰ」の授業で学ぶこととしては、大きく以下の4つがあるようです。

1. 情報社会の問題解決
 情報・情報技術を活用して、問題を発見・解決すること

2. コミュニケーションと情報デザイン
 目的や状況に応じて受け手に分かりやすく情報を伝えること

3. コンピュータとプログラミング
 コンピュータの仕組みを学び、その能力を引き出すこと

4. 情報通信ネットワークとデータの活用
 情報通信ネットワークや情報システムにより提供されるサービスを活用すること

吉金:高校の授業でこれらのことを学ぶにあたっては、情報教育の縦と横の連携が重要になってくると思います。縦の連携というのは、小学校や中学校での学習です。特に、中学校の技術・家庭科の学習からのスムーズな接続が必要ですね。

また、横の連携では、教科を横断して情報活用能力を身に付けさせる教育が求められます。「情報」の授業だけでこういったことを学ぶのではなく、例えば数学で統計を扱ったり、公民で情報モラルを扱ったりするでしょうから、そうした授業ともうまく連携したカリキュラム・マネジメントが必要です。

大学入学共通テストに「情報」が導入される一方、高校入試にはまだこうした教科は導入されていませんから、中学での学習が手薄になってしまわないか、危惧しているところです。

田中:今の中学3年生が3年後に受験する共通テストからは「情報」が試験科目として新設されますが、コンピュータを使用したCBTComputer Based Testing)方式はまだ採用されず、紙の試験になるそうです。

吉金:初年度は、従来どおりアナログの試験になるようですね……。今後なるべく早期にCBTが導入されることを期待します。いずれにしても「情報」が加わって、少しずつ従来の型から外れた入試に移行していくのではないでしょうか。知識量から、思考力・判断力・表現力を問う問題に変わりつつありますし、受験の様相が良い形で変わっていくことを願っています。

田中:教育のデジタル化は、障害を持つ子どもや特別な支援を必要とする子どもたちの可能性を広げることにもつながります。例えばデジタル教科書では、視覚障害を持つ子には読み上げ機能を利用したり、細かい文字を読むことが難しい子ども向けには文字や行間を拡大したりすることができます。

吉金:健常者を上回る素質や才能を持つ子も多いので、テクノロジーの発達によって可能性が開花すると良いと思います。ICT教育は、そうした障害をはじめとする多様性を受け入れることにもつながっていくのではないでしょうか。

 

* VUCAVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字で、社会や経済において将来の予測が困難になっている状態を意味する。

 

後編につづく