市販ペットボトルを完全分解する触媒反応を開発、プラごみ問題解決に活用 東農大

東京農工大学の平野雅文教授らの研究チームが、ポリエステルなどを原料とアルコールに分解する触媒反応を開発した。ポリエステルは繊維や食器類、ペットボトルなどの飲料容器、自動車部品や農業用資材などで広く使われている。この成果が廃プラスチック問題(プラごみ問題)の解決に繋がる可能性がある。英国王立化学会誌「ケミカル・コミュニケーションズ」電子版に627日付で掲載された。

プラごみ問題の現状と課題

日本のプラスチック・リサイクル率は86%とされているが、溶解して再び同じ素材として利用するなどのマテリアルリサイクルが21%、分解油やガス化して利用されるなどのケミカルリサイクルは3%で、残りの63%は燃料としてリサイクルされており、分別回収後も多くは燃やされているのが現状だ。

ペットボトルに使われるポリエチレンテレフタレート(PET)は大量の強アルカリ性のもとで分解できることは知られていたが、分解後に大量の酸で中和する必要がある。触媒反応を使った温和な条件下での分解が最近報告されたが、大量の添加剤が必要であった。

また水素ガスを用いた触媒分解も報告されているが、高温が必要であった。加水分解酵素による生分解も報告されているが、事前にペットボトルを溶解する工程や酸性度を一定に保つ必要があるなどの課題があった。

プラスチックを分解する触媒を研究・開発

今回、同グループはポリエステルが酸とアルコールの反応により合成される「エステル構造」が繰り返されている点に着目。ポリエステルのエステル構造をメタノールなどの低分子量のアルコールに次々と置き換えることができれば、最終的にはポリエステルの原料にまで分解できるのではないかと考えた。

このような反応はエステル構造を持つ低分子化合物では効率的な反応も知られていたが、ポリエステルを塩基や添加剤なしに効率的に分解する触媒は知られていなかった。

そこで、ポリエステルの中でも利用の多いポリブチレンスクシネート(PBS)を用いてさまざまな触媒を検討したところ、希土類元素のランタンの錯体が有効であることを見出し、メタノール中、反応温度90˚C、反応時間4時間で定量的に分解できた。同様にポリエチレンテレフタレート(PET)は、反応温度150˚C、反応時間4時間で分解でき、家電製品などに用いられているポリブチレンテレフタレート(PBT)も同条件下で分解できた。また、市販のペットボトルも同一条件下で分解できたという。

これまでプラスチックをつくるための触媒は数多く開発されてきたが、プラスチックを分解する触媒の研究はまだ始められたばかりだ。今後はより安価に、より温和な条件で分解を可能にし、経済的にも見合った分解反応を目指し、さらに活性の高い触媒の開発を進めていくという。また、研究室でのスケール拡大には限界があるため、より大きなスケールでの実証実験ができれば社会実装に近づくことも期待される。

ポリ(ブチレンスクシネート)の分解と再重合

画像提供:東京農工大学(冒頭の写真はイメージ)