再生可能エネルギー由来の水素を原料とするアンモニア合成に適した新しい触媒を開発

産業技術総合研究所(産総研)は22日、再生可能エネルギー由来の電力を利用して製造した水素を原料とするアンモニア合成に適した、新しい触媒を開発したと発表した。

この触媒は水素供給の変動に合わせてアンモニア合成反応の停止・再開を繰り返す条件でも安定してアンモニアを合成することができ、既存触媒に比べ1.5倍程度高濃度のアンモニアを合成することができる。

この研究成果は16日に「Journal of Catalysis」に掲載された。

今、アンモニアが注目される理由

アンモニア(NH3)は分子内に炭素原子を含まず、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないため、化石資源に変わる燃料として利用する技術が注目されている。

従来のアンモニア合成法であるハーバー・ボッシュ法は鉄触媒を用いて、化石資源から製造した水素と大気中に含まれる窒素とを400~600℃、100~300気圧という高温・高圧条件で反応させてアンモニアを合成しているが、水素製造の際に大量のCO2を排出するという問題があった。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーから得られる電力で水を電気分解して水素を製造する技術の開発が進められているが、気象条件によって製造される水素の量が変動する。そのため、水素の供給量に合わせてアンモニア合成プラントの停止・再開を行うことが想定され、反応条件の変動に対応できるアンモニア合成触媒が必要となっている。また、アンモニア合成反応に必要なエネルギーを抑えるために、従来法よりも低温・低圧条件で効率的にアンモニアを合成するための触媒の開発が求められてきた。

低温・低圧条件でアンモニアを合成可能な触媒の開発へ

研究グループは、活性炭などの炭素材料に触媒金属であるルテニウム(Ru)とセシウム(Cs)を加えた触媒の開発を進めてきた。今回、単位質量当たりの表面積が大きい単層カーボンナノチューブ(SGCNT)を担体(土台)として利用することで、RuとCsをSGCNT表面に広く分散させることが可能となり、今回の触媒の開発につながった。

新触媒を反応器に充填して、再生可能エネルギー由来の水素を利用する際に想定されるアンモニア合成反応の停止・再開の繰り返し試験を行った。温度380℃、圧力6~10気圧の条件で窒素と水素を反応器に供給してアンモニアを合成し、その後、温度、圧力を室温、2気圧まで下げ、窒素のみを供給して反応を停止させた。

再度アンモニア合成反応の条件に戻す操作を行ったところ、すぐにアンモニア合成反応が開始され、反応の停止前後で触媒性能の低下はなかった。この反応停止・再開の操作を長時間繰り返しても触媒の性能変化はなく、安定してアンモニアを合成できることが明らかになった。

また、触媒は工業的にはペレット状に成型する必要があるため、その性能も評価した。ペレット化触媒を既存触媒(酸化セリウムにルテニウムを付加した触媒)と比較したところ、温度400℃、圧力51気圧の条件で1.5倍程度高濃度のアンモニアを合成することに成功した。また、反応温度の影響を調べた結果、380℃、51気圧の条件で、最大のアンモニア濃度を示し、従来法よりも低温・低圧条件で高濃度のアンモニアを合成できることがわかった。

今後は詳細な触媒構造および反応機構の解析を行い、触媒を改良してさらに低温・低圧条件でアンモニアを合成可能な触媒の開発を行う。また、SGCNTや触媒金属であるルテニウムが高価であることから、より安価な触媒の開発を目指す。

図1 開発触媒を用いた変動条件での長時間アンモニア合成

図2 ペレット化触媒の性能評価

画像提供:産総研