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教師のかたわら版画制作 「へっぽこ先生」川上澄生の特別企画展

栃木県鹿沼市にある鹿沼市立川上澄生美術館は、大正から昭和にかけて活躍した版画家・川上かわかみ澄生すみおの作品、約3000点を収蔵する美術館だ。現在、開館30周年を記念して、没後50年となる川上澄生の画業を振り返る企画展「川上澄生の全貌」を開催している。

美術館正面、川上の作風を映し出す明治の洋館風の建物
展示風景

川上澄生は自らを「へっぽこ先生」と称し、日中は学校で英語教師として勤務するかたわら版画制作を行っていた。同美術館は、川上澄生の教え子であり、川上作品ファンの一人でもあった鹿沼市出身の長谷川勝三郎氏が収集した、2000点に及ぶ作品の提供をきっかけに1992年に開館した。

学芸員の原田敏行さんは、「川上は独学で版画を勉強し教師の仕事の傍ら制作活動を行っていたこともあり、楽しみながら作品をつくっていた雰囲気がある」と語る。

たとえば版画は和紙にするのが常識と思われているが、川上は包装紙の裏に刷ってみたり、布やアルミ箔に刷ってみたりと、型にとらわれず試行錯誤しながら制作を楽しんでいたようだ。

アルミ箔に刷った珍しい作品「女と洋燈」。なかなか色が定着せず失敗を繰り返したそうだ。

川上の代表作の一つ「蛮船入津ばんせんにゅうしん(群像図)」は、左側に日本人、右側に南蛮人(ポルトガル、スペイン人)が描かれており、南蛮貿易時代の文明と文明の出会いを表現している。元の持ち主である長谷川氏の思い入れがある作品らしく、一際鮮やかな額縁に入れられている。その額装のまま提供された。

代表作の一つ「蛮船入津(群像図)」
日光の“眠り猫”が女性の横で体を丸めている「洋燈・女・猫」。ユーモアも川上作品の魅力のひとつ。
「婦人と蛮船図」(絶筆)

絶筆となった「婦人と蛮船図」は77歳の時の作品。南蛮船が川上自身で、ハンカチを振って見送っているのが家族を表していると言われている。

 

開館30周年記念・川上澄生没後50年特別企画展「川上澄生の全貌」

会期:2023年3月26日(日)まで

開館時間:9:00〜17:00(最終入館16:30)

会場:鹿沼市立川上澄生美術館

住所:栃木県鹿沼市睦町287-14

電話番号:0289-62-8272