5G通信技術を用いて光量子コンピュータの高速化に成功 東大など

5G通信技術を用いて光量子コンピュータの高速化に成功 東大など

東京大学、理化学研究所、日本電信電話(以下、NTT)は7日、5G通信で用いる超高速光通信技術と、光量子プロセッサを融合させることによって、光量子コンピュータを高速化する技術を開発したと発表した。

量子コンピュータは従来のコンピュータでは実現できない超並列計算ができることから、世界各国で盛んに研究開発が行われている。光量子コンピュータは様々な方式の中の一つだが、この方式では超伝導方式に代表される「定在波」量子ビットではなく、光子が高速で飛来する「進行波」量子ビット、いわゆる「フライングキュービット」を用いる。この進行波量子ビットを時間軸上に並べることにより、定在波量子ビットを空間的に多数並べる方式よりも大規模化がたやすいという利点がある。

また、この方式は光通信技術との親和性が高く、商用の5Gやビヨンド5G通信で用いられる高速通信技術を活用することが理論上は可能である。だが、通信用のデバイスをそのまま光量子コンピュータに使うことは様々な制約が生じてできなかった。例えば光量子状態の測定に光通信用の高速なディテクタ(検出器)を用いると、光損失が大きくて光量子状態が崩壊してしまう。

研究グループは、量子情報を保持したまま光を増幅することが可能な光パラメトリック増幅器を開発した。今回はその使い方の一例として、光パラメトリック増幅後に市販の高速通信用43GHzディテクタを用いて、高速に信号を測定する手法を提案した。実験では高い増幅率(約3000倍)と小さい信号対雑音指数(約20%)の量子導波路によるパラメトリック増幅器を用いて、量子ノイズ圧縮率が約65%という結果が得られた。これは従来技術と比較して1000倍以上のクロック周波数で動作可能な量子演算が実現できることを示している。

5G通信技術を用いて光量子コンピュータの高速化に成功 東大など

(a)従来の光通信用高速ディテクタを用いた低効率・高速な検出系、 (b)従来の光量子用に設計された高効率・低速なディテクタを用いた検出系、 (c)本技術で提案し実証した光パラメトリック増幅と光通信用高速ディテクタを用いる高効率・高速な検出系。

今回の結果により、5Gの超高速光通信技術と光量子コンピュータ技術の融合により、高速な光量子演算が可能になることを示せた。将来的には光通信技術の波長分割多重化技術(WDM)を用いることで、量子プロセッサのマルチコア化も可能になる。

この技術は量子コンピュータ開発技法を、空間的な並列化と微細加工によるチップ化を基軸とした古典コンピュータ開発の系譜から、時間と波長による並列化と高速化が可能な光通信システム開発の系譜へと一新するパラダイムシフトをもたらすものだとしている。将来的には100GHz帯域の高速性と100コアの並列性を兼ね備えたスーパー量子コンピュータの実現を目指す。

写真提供:NTT(冒頭の写真はイメージ)