名大、高性能な遮熱効果を持つ太陽熱カットフィルムの開発に成功

名大、高性能な太陽熱カットフィルムの開発に成功 冷房負荷の削減に期待

名古屋大学の研究者らが、高い近赤外反射性能をもつ新しい透明導電体ナノシートを発見した。このナノシートをガラスにコーティングすることで、世界最高性能の近赤外反射率53%の遮熱効果を持つ「太陽熱カットフィルム」の開発に成功した。このフィルムは透明であるため、可視光は取り込みつつ、太陽光中の熱を効率的にカットすることができる。この技術を建築物や自動車の窓ガラスに応用すれば、冷房負荷の削減につながると期待されている。アメリカ化学会科学誌に掲載された。

世界のエネルギー消費の約20%は、建築物の空調に掛かる電力によるものと言われている。そこで太陽光中の熱(近赤外光)をカットし、可視光は通す透明な太陽熱カットフィルムを建築物の窓ガラスに用いれば、空調の省エネが可能となる。しかし、従来の太陽熱カットフィルムに用いられてきた「錫ドープ酸化インジウム(ITO)」などの透明導電体薄膜は希少金属を用いていたために資源リスクがあり、真空製膜装置での製造など製造コストの問題もあった。また、従来の太陽熱カットフィルムは近赤外光吸収による遮蔽効果を用いており、性能を向上させようと膜厚を増やすと可視光の透過性が低下するという問題もあった。

研究グループは、ナノシートをベースとした透明導電体の開発と応用を進める中で、高い近赤外反射性能をもつ新しい透明導電体ナノシートを発見し、これまでの問題を一掃した太陽熱カットフィルムを実現した。このナノシートは希少金属を必要とせず、環境にも優しい室温の水溶液内で製造できる。これを用いて還元型ナノシート膜を作製して導電特性の評価を行なったところ、膜厚1−50nmの超薄膜ながら、ITOに匹敵する優れた導電性を示した。また光学特性評価を行なったところ、優れた近赤外反射特性と可視光透過性を示し、膜厚とともに近赤外反射特性が向上した。特に膜厚50nmでは可視光透過率71%と高い値を維持しつつ、世界最高性能の近赤外反射率53%を実現した。

さらに、太陽熱カットフィルムの実用化を想定し、夏場の炎天下において遮熱試験を行なった。①還元前ナノシート膜、②還元型ナノシート膜、③石英基板の3種類のサンプルを被験者の着用する黒い服の表面に貼り付け、太陽光のもとに約10分間置いた後、サーモグラフィにより温度上昇を調べた。その結果、それぞれのサンプルの表面温度は36°C、27°C、43°Cであり、②還元型ナノシート膜は、ナノシート膜なしの③石英基板より16°Cも熱の上昇を遮るという優れた遮熱効果を発揮した。

名大、高性能な遮熱効果を持つ太陽熱カットフィルムの開発に成功
サーモグラフィーによる還元型ナノシート膜の遮熱効果テスト. (左)遮熱効果の実験風景。①還元前(透明半導体膜)、②還元後(透明導電体膜)、③石英基板を被検者の黒い服に貼り付けたときの写真。 (右)夏場の炎天下におけるサーモグラフィによる温度測定。②還元型ナノシート膜は③石英基板(ナノシートコートなし)に対して、マイナス16℃という優れた遮熱効果を発揮することが確認された。

画像提供:名古屋大学(冒頭の写真はイメージ)