書評『こどもを野に放て! AI時代に活きる知性の育て方』

5月5日はこどもの日。「自然の中で子どもを育てたい」と思う親は多いが、実際のところどんな効力があるのかはっきりわからずにいる人もいるだろう。そんな人に考えるきっかけとしておすすめしたいのが本書だ。

本書は、解剖学者の養老孟司氏や、生命誌研究者の中村桂子氏、小説家で詩人の池澤夏樹氏の対談をまとめたものだ。編著は、登山地図GPSアプリケーション「YMAP」を開発した春山慶彦氏。対談のテーマは、それぞれの人生経験から感じる自然観をベースに、現代社会の子どもにどのような自然観を持ってもらいたいか、どんな生き方をしてもらいたいかなど、示唆に富んでいる。

本書のタイトルを見ると、ハウツー本のような、はっきりした答えが提示されていると誤解する人もいるかもしれないが、決して特定の自然観を読者におしつけているわけではない。対談を通して、「自然観を問い、その問いを生きること」が本書の使命だと述べられている通り、解剖学者や生命誌研究者としての観点や、彼らの趣味や生きてきた時代背景を通して感じたことや疑問に思ったことなどがふんだんに語られ、その中で現代に失われたもの、未来に必要な考え方が議論されている。

4人の著者たち自身の自然体験談も興味深く、「自然というのは実は単調で退屈」「ほとんど何も起こらない」という表現は衝撃的だった。これは本当の自然に身を置かないと出てこない言葉であり、これを理解できる境地に至ってみたいと思わされた。

答えをはっきり提示していない本書からあえてキーワードを選ぶとしたら、タイトルにある「野に放て!」ではないだろうか。「ほとんど何も起こらない」と言われる自然に放たれた子どもがその世界をどう感じるのか、その後どんな行動をとるのか、そして大人になったらそれがどう活きてくるのかーー。自分を取り巻く風土の中で身体性や感性を大切にすること、そこにAI時代の教育の神髄が隠されているような気がする。

 

『こどもを野に放て! AI時代に活きる知性の育て方』
著者:養老孟司、中村桂子、池澤夏樹、春山慶彦
発行日:2024年2月29日
発行:集英社

(写真はイメージ)