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東工大、「元素戦略」で希少元素含まない窒化物半導体を発見

東京工業大学の大場史康教授、細野秀雄教授らは、高価な希少元素を含まず、赤色発光デバイスや太陽電池への応用が期待できる新しい窒化物半導体を発見した。最先端の計算科学に基づく「マテリアルズ・インフォマティクス」によって効率的に物質を選定し、高圧合成実験で実際に作成した物質は予測に近い性質を持っていた。このアプローチは、今後の材料開発で有力な手法になると期待される。英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』で21日に掲載された。

「夢の新材料」存在を理論予測

物質・材料探索では、元素の種類と組成の無限の組み合わせの中で可能な限り広く探索し、そこから有望な候補を的確に絞り込むための指針と手法が要となる。近年の計算科学の進展とスーパーコンピュータの演算能力の向上により、物質の安定性や特性を高精度かつ網羅的に理論予測できるようになってきた。このような先進計算科学、さらにはデータ科学や合成・評価実験に基づいた選定により物質・材料開発の加速を目指した「マテリアルズ・インフォマティクス」が世界各国で盛んになっている。

一方、「夢の新材料の実現」に向けて科学技術振興機構(JST)が呼び掛け、2004年4月に有機化学・無機化学・高分子化学・バイオの4分野の研究者40人が箱根に集まった。細野教授もその中の一人で、徹夜で語り合う中で生まれたキーワードが「元素戦略」。希少元素を用いずに、「ありふれた元素」で構成され、卓越した機能はもちろん、安価で高い環境調和性をもつ新物質・新材料を作り出そうというのだ。その後、06年の中国による希少元素の輸出規制などを受け、07年に文部科学省の「元素戦略プロジェクト」がスタートした。

窒化物は半導体としての応用に適した性質を持ち、窒素というありふれた元素の化合物だ。しかし、現在実用化されている窒化物半導体は、緑色や青色、紫外線の発光ダイオード(LED)に用いられる窒化ガリウムと、窒化インジウムまたは窒化アルミニウムとの固溶体にほぼ限定されている。また、既存の赤色や黄色のLEDには、高コスト、希少、あるいは使い捨てや廃棄が容易でない元素が使用されている。

候補リストには、合成例のない新物質も

今回の研究では、電子や正孔の輸送に有利な電子構造の観点から、亜鉛を含む窒化物半導体に対象を絞り、既知および仮想的な583種類の候補物質のリストを作成した。その候補物質を対象に、特性および安定性の観点から計算による選定で21種類に絞り込んだ。このうち6種類は既知の半導体であり、4種類は合成の報告はあるものの、半導体としての応用が未開拓なもの。残る11種類は合成の報告すらない新物質だった。その中でも窒化カルシウム亜鉛(CaZn2N2)は、カルシウム、亜鉛、窒素、という非常にありふれた元素のみで構成されており、計算結果から特に有望な新物質だ。そこで、このCaZn2N2を合成実験のターゲットとした。

計算から予測された通り1200度、約5万気圧という高温・高圧条件下においてこの新物質が得られ、その結晶構造は予測されたとおりだった。物性を調べてみると、計算による予測値との差も小さく、今回の理論予測が高精度であることを実証した。そして実際に赤色発光を観測できた。今後、探索範囲を拡張して計算による選定を行うことで、より多様な新物質を候補に挙げ、実験により検証することで、新物質のさらなる開拓が期待できる。

同研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>東工大元素戦略拠点(TIES)、JSTイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」、科学研究費補助金新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開」の助成により行った。計算には東京工業大学スーパーコンピュータTSUBAME2.5および京都大学スーパーコンピュータACCMSを用いた。

東工大、「元素戦略」で希少元素含まない窒化物半導体を発見
画像提供:東京工業大学
(冒頭の写真はイメージ)

 
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