睡眠中の記憶定着を支える神経細胞を特定 マウスで仕組み解明

睡眠には、日中に学んだことや経験したことを脳に定着させる働きがある。記憶の形成や保持に重要な脳の領域「海馬」では、ノンレム睡眠中などに、起きている間に経験した出来事に関係する神経活動が再び現れることがある。こうした活動は、記憶を定着させる過程に重要と考えられている。しかし、睡眠中にこの活動をどのような神経細胞が調節しているのかは、十分に分かっていなかった。中国科学院脳科学・知能技術卓越イノベーションセンターなどの研究チームは、マウスの実験で、記憶の定着を支える特定の神経細胞群を発見した。研究成果は10月19日、国際学術誌『Neuron』に掲載された。

研究チームが特定したのは、海馬に存在する「中間ニューロン」と呼ばれる神経細胞群だ。中間ニューロンは、「GABA(ガンマアミノ酪酸)」という神経伝達物質を放出し、ほかの神経細胞の活動を抑える働きを持つ。研究チームは、脳内の量が睡眠と覚醒の状態によって変化する神経伝達物質「アセチルコリン」に注目した。アセチルコリンは覚醒時やレム睡眠中には多く、ノンレム睡眠中には減少する。今回見つかった神経細胞群は、アセチルコリンが「M2受容体」に作用すると活動が抑えられる性質を持つ。そのため、アセチルコリンが減るノンレム睡眠中や、静かに目覚めているときには抑制が弱まり、活動しやすくなる。さらに、この細胞群はGABAを使って海馬全体の神経活動を広く抑制し、脳内の活動状態を調節していた。

研究チームがこの神経細胞群の活動を人為的に操作したところ、海馬の背側にある細胞群の活動を抑えると空間記憶の定着が損なわれ、腹側にある同じ種類の細胞群の活動を抑えると社会的記憶の定着が損なわれた。また、この細胞群は「尖波リップル」と呼ばれる海馬の特徴的な神経活動の発生を調節していた。尖波リップルは、海馬で短時間に起こる神経活動で、その際に過去の経験に関係する神経活動パターンが再び現れることがある。記憶の定着に重要とされ、今回の実験では対象の細胞群を活性化すると尖波リップルの発生が増え、活動を抑えると減少することが確認された。

今回の成果は、睡眠中の記憶の定着を支える神経回路の仕組みを明らかにしたものだ。アセチルコリンの減少によって活動しやすくなる中間ニューロンが、GABAを放出して海馬全体の神経活動を調節し、記憶の再活性化に関わる尖波リップルの発生を制御していた。脳の活動を抑える神経細胞が、神経活動全体のバランスを調節することで記憶の定着を支えている。研究チームは人間の海馬にも類似した神経細胞群を確認しており、今後、睡眠と記憶の関係や、睡眠の異常に伴う記憶障害の仕組みを解明する手掛かりになると期待される。

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