第111回日本精神神経学会が開催

 6月4日~6日まで、大阪市で第111回日本精神神経学会学術総会が開催された。精神疾患の患者数は、近年、うつ病などの気分障害やアルツハイマー病などを中心に増加しており、平成23年患者調査では320万人を超えている。従来の「4疾患」(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)の患者数よりも多くなっていること等を踏まえ、4疾患に精神疾患を追加し、「5疾患」について重点的に対策を進めていくことが決まった。脳は、臓器の中で最も複雑で人間にしかない機能もあることから、動物を用いた研究に限界がある。精神は目で見ることができず数値化して測定することも難しいため、他の4疾患に比べると原因不明であることが多い。

 とはいえ、筆者が医師になった二十数年前に比べると、遺伝子検査、画像検査は長足の進歩を遂げており、今回も興味深い発表があった。その1つが、ASD(自閉症スペクトラム)の原因についての研究である。ASDは変化に弱い、共感性が乏しいといった自閉性をもっているが、知能低下は伴わない(高い場合もある)障害である。有病率は年々増加しており、2~3%に達するという研究もある。ASDは先天性の障害で、治らないとされてきた。しかし、牧之段学氏(奈良県立医科大学精神医学講座)は、「精神科医のための分子生物学~自閉症スペクトラム障害の病態説明を中心に~」という教育講演の中で「ASDの発症に関して、遺伝子で決まるのは40%弱で、残りは環境の影響である。特に幼少期に周囲の人達がどのような関わりをもったかが非常に大切である。脳と腸はお互いに影響をあたえあっている。自閉症マウス(他のマウスに関心を持たず孤立している)は、腸内細菌叢の異常があるが、これを、健康な腸内細菌叢に入れ替えるだけで、自閉行動が軽減することが確かめられた」と述べた。将来の根治治療につながるこのような知見は、当事者や家族にとって、将来の治療に道を開く喜ばしいニュースである。精神医学の益々の発展と、救われる人が増えることを祈念したい。

第111回日本精神神経学会が開催