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食虫植物、進化のカギ遺伝子候補を発見 フクロユキノシタのゲノム解読

食虫植物、進化のカギ遺伝子候補を発見 フクロユキノシタのゲノム解読

基礎生物学研究所・総合研究大学院大学の長谷部光泰教授らは、オーストラリア原産の食虫植物「フクロユキノシタ」のゲノムを解読し、食虫性の進化の鍵となる遺伝子候補を発見した。国際的生態学・進化学専門誌『ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション』に7日付けで掲載された。

食虫植物の進化のなぞ解く遺伝子候補

生命の進化は、突然変異が自然選択によって集団内に残ることで引き起こされたと考えられている。しかし、食虫植物のように、小動物の誘引、捕獲、消化、吸収といくつもの進化が重なって初めて意味を持つようなケースでは、どのように引き起こされたのかが謎だった。例えば、普通の植物の葉が平らな平面葉なのは光合成に適しているからであり、形だけが獲物を捕らえるわなの形状をした捕虫葉のように変化すると、光合成の効率が落ちて集団内に残るのに不利になってしまう。

フクロユキノシタは、一個体の中で捕虫葉と平面葉の両方を形成することが知られている。研究チームは、この点が食虫植物の進化研究に適していると考え、核ゲノム(遺伝子の全体)の概要塩基配列を解読した。また、培養温度の違いで捕虫葉と平面葉を作り分けることができることを発見した。そこで、平面葉だけを作る温度で育てた場合と、捕虫葉だけを作る温度で育てた場合を比較して、発現の異なる遺伝子を探索したところ、食虫性の進化の鍵となる遺伝子候補が見つかった。具体的には、蜜や色素形成など小動物の誘引に関わると推定される遺伝子、形態形成に関わる転写因子遺伝子、小動物を滑らせるワックス合成遺伝子、消化物の吸収や代謝に役立つと推定される遺伝子などが捕虫葉でより多く発現していた。

食虫化で獲得した「消化酵素」はどこからきたか

また今回、種類の異なる食虫植物が独立に進化する中で獲得してきた、消化酵素の遺伝子とタンパク質の構造についても解析。消化酵素は、一般の植物は持っておらず食虫植物が独自に獲得してきたもので、これまで「耐病性遺伝子」から進化したと推定されていた。

研究チームは、フクロユキノシタに加え、異なる系統で食虫化した東南アジア産のヒョウタンウツボカズラ、オーストラリア産のアデレーモウセンゴケ、北米産のムラサキヘイシソウを材料に、消化液中に分泌されるタンパク質を解析した。耐病性遺伝子など同じような酵素活性を持ったいくつかの遺伝子のうち、耐病性遺伝子の一つと推定される特定の遺伝子が、これらの食虫植物において、繰り返し消化酵素の遺伝子に進化したことがわかった。このことは、食虫植物に進化するには限られた道筋しかなかったことを示しているという。

さらに、消化酵素の遺伝子は、それぞれの種で独自に進化したにも関わらず、アミノ酸配列が互いに類似していた。これらのアミノ酸は消化酵素の遺伝子表面に位置することから、消化液の中で消化酵素が安定に機能するために必要だったと考えられる。

今後、食虫性に関わる遺伝子候補の捕虫葉での機能を解析するとともに、消化酵素として進化した特定の耐病性遺伝子が非食虫植物でどのような機能を持っているかを解析することで、それぞれどのような変化で進化してきたのかが明らかになっていくだろう。

画像提供:基礎生物学研究所(フクロユキノシタ Cephalotus follicularis。スケールは1cm。)

 
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