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熱流を一点に集める「集熱」に成功 高度な熱マネジメントへの応用に期待

東京大学生産技術研究所の野村政宏准教授らは、物質中の熱流の方向を制御する技術を開発。シリコン薄膜にナノ構造を形成することで、熱流に指向性を与えられることと、固体中で熱流を一点に集中させる「集熱」に成功した。18日付の「ネイチャー・コミュニケーションズ」で発表した。

「電子」を扱うエレクトロニクスと「光子」を扱うフォトニクスは、ナノテクノロジーによって高度な発展を遂げてきた。しかし、「熱」に関しては大きなスケールでの取り扱いが主で、ナノテクノロジーを積極的に利用して熱伝導を高度に取り扱う研究が始まったのは、つい最近のことだ。

固体中の熱伝導は、熱の運び手である粒子「フォノン」が移動する現象であり、フォノン同士が互いに衝突することで特性が決まる。しかしその固体が、フォノン同士が衝突するまでに進む距離よりも小さな構造になると、フォノン同士が衝突する前に構造に衝突するため、構造で熱伝導を制御できる。そのため、ナノスケールのフォノン輸送をきちんと理解することが高度な熱制御に結びつき、本来材料だけで決まっていた熱特性をナノ構造化で制御できるようになる。

今回研究チームは、厚さ150nm(n=ナノは10憶分の1)のシリコン薄膜に規則正しく半径100nmほどのナノサイズの円孔を配列し、熱の運び手であるフォノンが直線的に移動する構造を形成することで、熱流に指向性(方向によってエネルギー強度に違いがあること)を持たせることが可能であることを世界で初めて実験的に示した。次に、この指向性を利用し、フォノンが一点に集中するよう放射状に外側になるほど半径が大きな円孔を配置することで、レンズのような構造を形成した。その結果、熱流を100nm程度のごく狭い領域に集熱することができた。

熱流方向制御技術と集熱技術は、熱制御技術に新しい選択肢を与え、高度な熱マネジメントが望まれる半導体分野への応用が期待できる。例えば、激しい発熱を伴う半導体チップなどにおける放熱性能の向上や、これまでに意識されていなかった熱流の指向性を考慮して積極利用する構造設計、局所的な熱流や温度分布を必要とする系への利用が考えられる。高度な熱制御は、放熱問題の解決などを通じてエレクトロニクスやフォトニクスのさらなる発展への寄与も期待できる。

画像提供:科学技術振興機構(JST)

 
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