• HOME
  • Alternative
  • 法律家の目で ニュースを読み解く!「NHK受信料合憲」判決が抱える矛盾
「NHK受信料合憲」判決が抱える矛盾

法律家の目で ニュースを読み解く!「NHK受信料合憲」判決が抱える矛盾

「NHK受信料合憲」判決が抱える矛盾

昨年末、NHKの受信料支払い義務について争われた裁判で、初めて最高裁判決が出ました。簡単に言えば、「テレビは置いているけど見ていない」「テレビは置いているけどNHKの番組は絶対に見ない」という人に受信料支払い義務が発生するかどうかという話なのですが、最高裁はテレビ(「受信設備」と裁判では表現)を家に置いている限り、NHKの受信契約を締結しなければならない、との結論を出しました。
今回はこの、NHK受信料問題について見ていきたいと思います。

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

―「テレビを持っていたら受信料を支払わなければいけない」は本当でしょうか?

放送法という法律では、「テレビを家に持っている人はNHKと『受信契約』を結び、それに基づいてお金を払わなければならない」と定められています。しかし今回の裁判の争点は、そもそもこの放送法の規定が憲法違反ではないかという点でした。

NHKはいかに公益性が高いように思われても、契約関係においては一法人に過ぎないですから、個人がNHKと契約するかどうかは自由であるはずです。放送法が契約を強制するのは、「契約の自由」という民法の大原則に反することから、放送法の規定が憲法違反ではないかと疑われていたのですが、最高裁はこの規定を合憲と判断しました。
 

―なぜ最高裁は放送法を合憲と認めたのでしょうか?

今回の判決には、筋論としては違憲の筋も十分成り立つのですが、議論があるとはいえNHKに一定の公共性が認められるのは確かです。またこれを違憲とした場合、全国で一斉に受信料不払い運動が起きてNHKが潰れてしまうかもしれませんから、判決の結論自体は致し方ないのかもしれません。
 

―今回の判決は、NHKに有利な判決だったのでしょうか?

いいえ、必ずしもそうとは言えません。最高裁は、受信契約を受け入れない人に対しては「NHKが裁判を起こして勝訴した上で初めて受信契約が成立する」としました。したがって受信契約を受け入れず、受信料を支払わない人に対しては、NHKがすべてのケースに訴訟を起こさないと受信契約が成り立たないことになります。そうなると結局、弁護士費用を含めた訴訟費用などのコストの方が高くついてしまう恐れがあります。
 

―受信料をめぐる問題は今後どうなっていくのでしょうか?

上記のような理由から、受信料をめぐる問題は今後、放送法をどう改善していくかという話になっていくと思われます。その中でNHKの公共性を保ちつつ、収益源をどう確保していくのかという方向に話は流れていくでしょう。
 

―過去に受信料を払っていなかった人たちはどうなるのでしょうか?

NHKとしては今回、受信料の支払いを求める上での大義名分は得たものの、受信料を求めるには裁判をしなければならない立場に置かれたというのも実情です。このため、状況が一気に変わるわけではないと思われます。
 

―スマートフォンやカーナビにも受信料支払い義務は発生するのでしょうか?

いわゆるワンセグ・フルセグに対応していて、テレビ番組を視聴できるスマートフォンやカーナビなどにも受信料支払い義務が生じるか否か、も気になるところです。これはかなり深刻な問題ではないかと思います。例えばテレビは持っていないけれどスマートフォンは持っているという人に支払い義務があるかという話ですが、最近の若者や単身者の中にはこちらの人の方が増えているように思います。NHKはワンセグ対応端末なども「受信設備」に含まれ、その所持者は別にテレビを持っていなくても受信契約を締結しなければならない、と主張しています。

この件についてはこれまでに5件、地裁判決が出ており、結論は分かれています(*一昨年のさいたま地裁では「契約を締結しなくてよい」という判決が、昨年末の東京地裁を含む4件の地裁判決では「締結しなければならない」という判決が出された)。さいたま地裁の件などは控訴されて高裁に係属していますが、今回の最高裁での判決が一定の影響を与える可能性はあります。また、最終的に最高裁が統一的判断を下すことになるかもしれません。
 

―スマートフォンに受信料が発生する場合の影響は?

議論の争点は「受信設備」にスマートフォンが含まれるか否か、スマートフォンを携帯することが「設置」に含まれるか否かという点なのですが、さすがにスマートフォンを持ち歩くことを「設置」と言われたら違和感は否めません。現実の生活と法律の乖離はくりがはなはだしいことが浮き彫りになっています。

また、ワンセグ・フルセグ対応端末が受信料の徴収対象となると、そのような端末がかえって消費者から敬遠されるようになり、せっかくのワンセグ・フルセグ機能が市場から締め出される逆効果も懸念されます。ビジネスの側面からも、技術的な解決とともに立法的な解決が不可避だと思います。

法律は万能ではありません。人間が作るものですし、時代に合ったものである必要があります。放送法は1950(昭和25)年に公布・施行されたもので、それからもう67年も経っています。時代が変わり、技術もはるかに発展したのですから、法律の方が見直されるべき時に来ていると言えそうです。

(写真はイメージ)