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持続可能・再生可能資源の木質バイオマス、生成過程の定説を刷新

持続可能・再生可能資源の木質バイオマス、生成過程の定説を刷新

奈良先端科学技術大学院大学の出村拓教授らは、カナダのブリティッシュコロンビア大学との共同研究で、バイオマスとして利用される樹木由来の高分子混合物「リグノセルロース」ができる過程が従来の定説とは異なることを発見。その生合成モデルを25年ぶりに刷新した。米国の植物生理学会の学会誌『プラント・セル』誌オンライン版に19日付で掲載された。
 

木質バイオマス利用の課題解決に前進

リグノセルロースは、陸上で得られる最大の持続可能かつ再生可能な資源「木材(木質バイオマス)」の本体。繊維やパルプなどに使われる「セルロース」が約50%を占め、さまざまな単糖によって構成される「ヘミセルロース」20~30%、香料や接着剤などの開発が進む「リグニン」30~20%の3成分で構成される。

産業利用の期待が高まる木質バイオマスは、各成分の分離抽出が困難であるといった課題があった。今回の研究で、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの蓄積量比や蓄積箇所を自在にコントロールできる可能性が出てきた。今後、用途に応じた性質をもったリグノセルロースを生合成するのに効果的な質的改変技術につながることが期待されている。
 

リグニンなどの生合成が制御可能に?

従来、リグノセルロースができるまでには、まず主成分のセルロースが細胞壁に蓄積し、その後、その蓄積具合によって他の2成分も蓄積していくものと考えられてきた。

出村教授らは今回、セルロースを作れない変異体を使った実験で、リグノセルロースの生合成過程を検証した。その結果、最初の段階で必要と考えられていたセルロースの生合成が起こらなくても、ヘミセルロースやリグニンの蓄積が細胞分化初期から起こっていることを発見。ヘミセルロースとリグニンの蓄積パターンは細胞の骨格をなす繊維状の微小管のパターンに左右されていた。一方、分化中期以降ではヘミセルロースとリグニンの蓄積は、従来の説どおりセルロースの存在に大きく依存することも分かった。

これらの3つの成分は初期の段階でそれぞれ独立して蓄積されることが分かった。これまでは、セルロース生合成の制御がヘミセルロースやリグニンの蓄積を支配すると考えられてきたが、セルロースと独立してヘミセルロースやリグニンの生合成を人為操作できる可能性があるという。従来のリグノセルロースの生合成モデルを修正し、リグノセルロースの生合成メカニズムの理解が深まったといえる。

(写真はイメージ)