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伝統文化を継承するということ――加賀友禅ブランド化の試み 前編

伝統文化を継承するということ(1)―加賀友禅ブランド化の試み 前編

私たちは日本の伝統美のすばらしさを理解しながらも、それは生活に身近なものではなくなってきています。実益社会の中で次第に継続できなくなっていく伝統工芸が後を絶ちません。加賀友禅もその一つ。きれいな水と色で美しい図柄を現わすその技術も、小さい工房の生活者一人一人の支えで成り立っています。

生活様式の変化による需要の移り変わりがある中で、伝統工芸はどのように存続しているのでしょうか。伝統工芸を生かした新しい技術や仕組みづくりに取り組んでいる加賀友禅の絵付師、久恒俊治さんは、「天女の羽衣」といわれる布や家具への絵付、友禅柄の食器などを手がけています。その絵付け工房を訪ねました。

(記者)工房を拝見しましたが、本当に普通のご家庭の中のような場所で絵付けをされているのですね。
(久恒さん)この周辺には、昔から私たちのような小さな工房がいくつもあり、各家が模様、絵付け、蒸し、洗い流し等を分業して行っています。工房の見学に来られる方は最近では外国人の方が多く、直接こちらにコンタクトしてくださることも多いですね。

(記者)加賀友禅の成り立ちについて教えていただけますか。
(久恒さん)加賀には500年ほど前に「梅染」という、梅の木の皮で黒く染める技法がありました。加賀友禅のような模様を描く技法は、宮崎友禅斎から始まります。友禅斎は元々能登の出身であったといわれ、20歳で京都に出て井原西鶴の物語の扇絵を描いて有名になりました。1712年、70歳になって金沢へ移住し、御用紺屋「太郎田屋」に身を寄せながら、斬新なデザインの模様染や友禅糊の技術を定着させました。

伝統文化を継承するということ――加賀友禅ブランド化の試み 前編
絵付をする久恒さん

(記者)京都友禅と比べて加賀友禅の特徴は何ですか。
(久恒さん)加賀友禅は京都より小規模で、量より質の高級品として評価されています。金沢の黒は100%の黒で美しいと言われています。文化的に、京都は公家や豪商向けの絢爛けんらんさ、金沢は武家好みの落ち着いた品のある美しさが好まれました。工程も、京都は分業体制が細かく専門化されていますが、金沢では下絵から彩色まで一人の職人がやることもあります。

他にも、加賀友禅には以下のような特徴があります。

・虫喰い(自然の葉が虫に食べられているように、葉の模様にも同じく虫が食べたようにする彩色)
・先ぼかし(外側から内側に向かってだんだん薄くなるような彩色)
・加賀友禅五彩 蘇芳すおう黄土おうど・藍・草・古代紫を基調とした色彩

伝統文化を継承するということ――加賀友禅ブランド化の試み 前編

(記者)久恒さんは絵付師とのことですが、全体はどのような工程で製作されるのでしょうか。
(久恒さん)工程はまず、
(1)模様師が図案を作成することから始まります。
(2)図案の上に布を置いて下から照明を当て、露草のインクで下絵を写し取ります。
(3)米の糊を線に置いていく「糊置き」を経て、
(4)輪郭の中に彩色します。
(5)彩色した部分を糊で伏せる「糊伏せ」を施し、
(6)仮蒸しを経て、染屋が地染めをします。同じ色に染め上げるのには熟練した職人の技が必要です。
(7)蒸屋が本蒸しをして色が定着したら、その後、
(8)水で糊や余分な染料を洗い流します。浅野川の「友禅流し」が有名ですね。昔は川でやっていましたが、今は各自が家に人口の川を作っています。冬のほうが水の粒子が細かく締まった色になります。
こうして仕上がった反物から仕立屋が着物に仕立て、問屋や呉服屋が販売をします。大体1着の着物ができるまで3カ月くらいかかります。

伝統文化を継承するということ――加賀友禅ブランド化の試み 前編
糊置きの様子(工房HPより)

伝統文化を継承するということ――加賀友禅ブランド化の試み 前編
浅野川での友禅流しの様子(石川県HPより)

後編に続く