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黄砂が妊婦の健康に与える影響が明らかに 早期剥離が1.4倍の頻度で発生

黄砂が妊婦の健康に与える影響が明らかに 早期剥離が1.4倍の頻度で発生

東邦大学、九州大学と国立環境研究所の疫学研究グループは8日、「妊婦が黄砂にさらされると早期剥離はくりが起こりやすくなる可能性がある」との研究結果を発表した。これは、人を対象とした疫学研究(※)の成果としては世界初となる。10月26日付の産科婦人科学専門誌(BJOG:An International Journal of Obstetrics and Gynaecology)に掲載された。

早期剝離とは、本来は出産後に子宮壁からはがれてくるはずの胎盤が、出産前にはがれてしまう状態のこと。母子ともに命に係わる非常に危険な疾患であるため、緊急帝王切開で早急に出産させ、母子双方を救命する必要がある。全妊婦の約1%に起きるとされているが、その原因はわかっていない。黄砂は、アジア内陸部の砂漠由来の砂ぼこりが偏西風に乗って日本を含む東アジアの国々に飛来する現象のこと。微生物や大気汚染物質を含むため、人の健康への影響が心配されている。

同研究グループは、黄砂が全身性の炎症を引き起こすと指摘されていることに着目。妊婦が黄砂にさらされると炎症をきっかけとして早期剥離が起こりやすくなるのではないかとの仮説を立て、黄砂と早期剥離の関連性を調べた。

レーザー光線で黄砂の濃度分布を測定する装置を使い、東京、大阪など9都府県を対象として2009~2014年の6年間で都府県ごとに黄砂が飛んできたと思われる日を特定。対象地域にある計113病院で出産した妊婦3014人を対象に、黄砂と早期剥離の関連性を分析した。その結果、黄砂が飛来した1~2日後の早期剥離をともなう出産は、黄砂がない時の1.4倍の頻度で発生しており、黄砂の飛来した後に早期剥離を伴う出産が増えるという関連性が示された。

黄砂が早期剥離を引き起こすメカニズムについては、黄砂が巻き込んでくる微生物や大気汚染物質が原因となって炎症が起こり、早期剥離のきっかけとなっている可能性があるという。今後、黄砂が妊婦の健康にどのような影響を与えるのか研究を進めることで、早期剥離の発症メカニズムの解明につながることが期待される。

※疫学研究とは、地域社会や特定の人間集団を対象として、健康に関する事象(病気の発生状況など)の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする医学研究のこと。

(写真はイメージ)