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依存症専門医に聞く、変化の時代を生きる大切さ(1)

世界がコロナ危機の中にある今、私たちの生活様式も大きく変化しました。グローバル化したこの時代、新型コロナウイルスは一地域にとどまらず、瞬く間に世界中に感染経路を広げました。これを抑え込むために私たちは、海外と自由に行き来できる生活や、人とのコミュニケーションを制限されています。先の見えないこの状態の中で、「変化を生きる」ことの大切さについて、アルコール依存症専門医の垣渕洋一先生に、精神科の観点からお話を伺いました。

垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医

 

編集部)コロナによって、依存症患者を取り巻く環境ではどのようなことが起きていますか?

垣渕)コロナが流行し始めた当初、依存症患者を取り巻く環境は厳しくなりました。断酒をしている人・しようとしている人にとって重要な意味を持つ自助グループ(断酒会, AA)の集まりは3月以降、ほとんどの会場が閉鎖になったために開催できなくなってしまったからです。
 

編集部)自助会とは依存症者にとって、どのような重要な意味を持っているのでしょうか。

垣渕)自助会とは、依存症の当事者・経験者の集まりのことです。依存症者がアルコールを手放す喪失感を埋められる場であり、シラフで世知辛い世の中を渡っていく苦労を愚痴りあって受け止めてもらえる場所です。また強烈な飲酒欲求がわいたり、飲酒してしまった時の相談の場としても機能しています。

外からは分かりにくいことですが、依存症者が何年にもわたって断酒を続けるというのは、実は相当な努力と工夫が必要なことで、人生にとっての一大事業なのです。そのため、彼らにはその苦労を認めて称賛してもらえる場所が必要です。そのことを理解し、苦労の意味をだれよりもわかっているのが、同じ苦労をしてきた自助グループの先輩たちです。

そういった出会いや対話の場となる自助会は、断酒を続け、かつ「シラフの方が幸せだ」という経験を積むために、なくてはならない役割を果たしているのです。そのため、自助会に参加できなくなったことで時間を持て余してしまい、ストレスへの対処がうまくできなくなり、飲酒が再開してしまった人が出てきています。
 

編集部)自助会をオンラインに移行するという動きはあったのでしょうか?

垣渕)当事者同士で集まることの価値を知っている人たちは、この事態を受けて4月末頃から、オンライン自助グループを相次いで立ち上げました。AAのあるメンバーは「仲間と会うことに飢えていたので、2か月ぶりに参加して、ホッとするやら嬉しいやらで涙が出ました」と話していました。自助グループの重要性を改めて痛感しています。

6月になって、オンラインから対面に戻って開かれる自助グループも増えました。対面の集まりと比較すると、オンラインは、「感動が薄い」とか「集まりの前後の雑談ができないのが物足りない」と話す人もいますが、会場が遠かったり、仕事や子育てで参加が難しかった人にとっては逆に利点がありました。オンラインだと、遠方や海外在住の人と会えるのもメリットです。このためコロナ禍が終息しても、継続されるオンラインの集まりが一定数あると予想します。
 

編集部)自助グループの集まりだけでなく医療機関においても、コロナ禍を受けての変化はありましたか?

垣渕)外来への通院においても政府から「なるべく、通院間隔を空けること。オンライン診療も推奨」という通達があり、制限されました。私は外来で120人程の依存症者の治療に携わっています。「これ幸い」と通院を中断し、飲酒を再開する人が出るかもしれないと心配になり、オンライン診療が可能であることをお知らせしました。

しかし、ここまでのところ患者さんの中に飲酒再開した人はおらず、「感染が怖いから」とオンライン診療に切り替えた人も1人だけでした。大半の方は「オンラインより、シラフの顔を先生に実際に見せる方が良い」と外来に来ています。そして、「ウイルスに当たる(感染する)より、アルコールに当たる(飲酒再開)方が、自分にとってはずっと怖い」というコメントを聞くことが多かったです。
 

編集部)コロナの影響で、これまで依存症ではなかったけれど酒量が増えてしまった、という人は増えているのでしょうか?

垣渕)もともと愛飲家であった人が在宅勤務になったり、あるいは失業して、そのストレスや暇を持て余すと、飲酒量が増えがちです。朝から晩まで飲酒し体調不良になる、転倒して負傷する、飲みすぎで家族から指摘される、といったことを機に相談に来る人が増えています。

うつになる人も増えています。非常事態宣言が出されている時は気が張っているので、疲れていても気づきにくいです。失業したり、売り上げが激減したりしても、すぐにはうつになりません。しかし非常事態宣言が解除されると、緊張が解けて疲れを自覚するようになります。失業もせず元の生活に戻る人が大勢いる一方で、事業や経済の悪化から回復できない人が、うつになる危険が高くなります。

(次回は、うつを予防するための対処法について伺います。)

(写真はイメージ)

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