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コロナウイルス感染疑い、「同居家族」になって【前編】

コロナウイルス感染疑い、「同居家族」になって【前編】

東京都が緊急事態宣言を発令した4月7日〜5月25日の期間に、東京都下在住の筆者(29歳)は、同居家族である夫(29歳)が発熱して、新型コロナウイルス感染症のPCR検査を受けるという経験をした。東京では、3月24日に東京五輪の延期が決定し、4月から飲食店や百貨店が軒並み臨時休業、企業は急速にテレワークや交代勤務を導入するという事態になっていた。5月には通勤している人の方が珍しがられるくらい、テレワークが浸透していたように思う。そしてこの時期、マスクと消毒液の入手は非常に困難になっていた。夫が最初の発熱からPCR検査を受けて「陰性」の結果が出るまでに13日、そして会社に通えるようになるなど通常の生活に戻るまで1カ月かかった。その顛末を綴ってみたい。
 

微熱が下がらない

5月3日の朝、夫が「頭が痛い」と言った。夫は、普段は風邪を引いても、食事をして休めば1〜2日で回復するくらいの健康体で、平熱は36度台前半。しかしこの日は熱が37.2度だった。頭痛と喉の痛みを訴え、自宅にあった総合感冒薬を飲んだ。しかし翌日、翌々日になっても平熱には戻らず、とはいえ37.5度以上の高熱にもならなかった。息苦しさや咳き込むような、肺炎と言えそうな症状もまったく見られず、頭痛と37度前後の微熱が続いた。夫の勤務先は東京の近隣県で、東京都下にある自宅からは日常的に満員電車を利用することもなく、社内に感染者もいなかった。

この頃東京では、連日10〜30人前後の新規感染者が報告されていた。亡くなる方も毎日いた。ゴールデンウィーク期間中だったが、観光地や東京駅等の閑散とした様子が報道され、多くの人が自宅で過ごしている状態だった。
 

病院へ行くのに許可が必要

発熱から4日目の5月6日、病院に行こうと決めたが、この日は休日だったためかかりつけのA医院はお休みだった。ネットで見つけたB病院に電話したものの発熱者は通常の受診はできないと言われた。まずは相談センター(新型コロナコールセンター0570-550-571)へ電話をし、「一般の内科を受診してよい」という許可を得なければならないという。また、発熱者外来の時間帯(午後4時半〜)が決まっており、「その時間に来てください」と言われた。ニュースなどではなかなか電話がつながらないという話を耳にしていたものの、相談センターはすぐに電話がつながり、「海外渡航歴はありますか?」、「37.5度以上の熱が出ましたか?」などいくつか質問をされ、「一般の内科を受診して大丈夫です」と言われた。数分間、電話口で質問に答え、口頭で許可をもらうという簡単なものだった。

この日のB病院の発熱者外来は予約が埋まっており、翌日5月7日の予約をとった。発熱してから4日目になって病院へ行こうと決めたのは、新型コロナウイルス感染症の相談・受診に対する「37.5度以上の熱が4日以上続いた場合」という政府の指針が頭にあったからだった。夫の場合は微熱で、それほど緊急性を感じる症状はなかったので、即日診察してもらえなくても不安には感じず、翌日まで待つ心の余裕があった。しかし、もっと熱が高く症状が重い人の場合はどうなのだろうと恐ろしくなった。
 

「37.5度以上の熱」「4日以上」の縛り

B病院の発熱者外来を受診できたのは、夫の発熱から5日目の5月7日だった。自宅は、都内中心部まで電車で1時間くらいの某市。自家用車を持っていないので、筆者が付き添ってバスで30分かけて、自宅からおよそ10km離れたB病院へ向かった。病院に着くと人はほとんどおらず、すぐに診察を受けられた。念のため肺の音を聞いてもらったが異常はなく、風邪という診断だった。病院の受付では患者以外も全員検温を義務付けられ、待合室では席と席の間に人が2人くらい立てるスペースが設けられていた。

病院の待合室でテレビを眺めていると、「女優の岡江久美子さんがコロナウイルスで亡くなった」というニュースが流れてきた。そして政府が、コロナの疑いで受診できる基準としていた「37.5度以上の熱」「発熱が4日以上」の文言を削除するとの発表があった。岡江さんは熱が出てから「4日以上」のルールを守ったことで病院へ行くのが遅れたという話だった。テレビから「あれは基準ではなく目安だった」という言葉が聞こえた。しかし、その「目安」を律儀に守ったことで苦しみ、亡くなってしまった人たちがいる。そのことを思い、自分と夫も「4日以上」のルールを守っていたことを考えると心が落ち着かず苦しくなった。(中編につづく

(写真はイメージ)