不良土壌を農地にする環境に優しい肥料を開発 徳島大など

徳島大学は11日、同大学院医歯薬学研究部の難波康祐教授らが、イネ科植物が根から分泌する天然成分を元に、アルカリ性の不良土壌でも鉄分を水に溶かすことができ、環境にも優しい次世代肥料の開発に成功したことを発表した。世界の食料問題を解決する手段として、今後の実用展開が期待される。10日付で英国の科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」電子版に掲載された。

アルカリ性不良土壌を農地に

全世界の陸地の約7割は農耕に適さないと言われている。そのうち半分は土壌がアルカリ性で鉄分が水に溶けず、植物は根から鉄分を吸収できずに枯れてしまう。アルカリ性の土壌で農耕が可能となれば、大幅な食料増産が期待できる。

そこで、アルカリ性の土壌でも鉄分が水に溶けるようにする肥料の開発が行われてきた。しかし、既存の肥料では十分な効果が得られず、また土壌に残留してしまう環境負荷が懸念されていた。一方、イネ科植物が鉄分を効率よく吸収するために、「ムギネ酸」という天然成分を分泌することが40年以上前から知られていたが、ムギネ酸類を肥料に利用する試みはほとんど行われてこなかった。これは、ムギネ酸類が天然では極微量しか得られず非常に高価であること、土壌中では微生物によってすぐに分解されてしまうためであった。

環境に優しい次世代の肥料を開発

難波教授らは有機合成化学の技術を用いて、ムギネ酸に似た天然物「デオキシムギネ酸(DMA)」の効率的な合成法を開発した。これによりアルカリ性の土壌でもDMAを投与することで、イネが鉄欠乏症にならないことを世界に先駆けて実証した。

しかし、DMAは土壌での安定性が低く、合成に用いる原料が非常に高価であった。そこで、原料を安定かつ安価なアミノ酸に代替したものを合成し、その性能を評価した。その結果、天然アミノ酸であるL-プロリンに変更した安価な「プロリンデオキシムギネ酸 (PDMA)」が、DMAよりも優れた成長促進効果を示すことを見出した。PDMAの合成コストはDMAの1/1000〜1/10000にまで削減でき、原料コストの問題も解決できた。また、PDMAはイネのみならず、トウモロコシやオオムギなどにも有効であることがわかった。

さらに、天然のムギネ酸類は土壌中の微生物によって1日で分解されてしまうが、PDMAは約1ヶ月かけて分解され、長期的に効果を維持することもわかった。1ヶ月で分解されるため、環境にも優しい肥料として使用できる。

また、アルカリ性土壌のパイロット圃場でイネの屋外栽培試験を実施した結果、PDMAが既存の肥料よりも約10倍程度の優れた鉄欠乏回復効果を示すこと、またアルカリ性土壌から実際にコメの収穫もできることが示された。

SDGs達成を目指す

世界の人口増加は著しく、2050年には100億人に達することが予想されている。食料生産が人口増加に追いつかなければ、深刻な食料難が訪れてしまう。

今回の成果により、これまで農地には不適とされていた土地を活用できれば、食料増産に絶大な効果をもたらすことだろう。また、SDGs「2.飢餓をゼロに」への貢献のみならず、不良土壌の緑化により、「13. 気候変動に具体的な対策を」、「15. 陸の豊かさも守ろう」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」にも貢献すると期待される。

徳島大学は今後も、世界の土壌に応じた投与条件の精査や工業スケールでの製造法の検討を進め、世界の不良土壌の緑地化と食料の安定確保に貢献していくという。

(写真はイメージ)