冬の電力不足は回避できるか? 原発再起動への長い道のり

今年は折に触れて電力需給のひっ迫が叫ばれている。経済産業省は15日、この冬の電力供給の余裕を示す「予備率」について、全国で安定供給に最低限必要な3%を上回る見通しになったと発表した。岸田文雄首相は、最大9基の原子力発電所の稼働を進め、電力供給力を確保するとしている。では、原発を再稼働させるためには、どのような手続きが必要なのだろうか。安全確保のための厳しい審査の内容について解説する。

再稼働の高い壁 新規制基準の求める条件とは?

福島第一原子力発電所の事故(以下、1F事故)以前、国内で稼働していた原発56基のうち、23基が廃炉決定し、10基が再稼働、15基は再稼働に向けた新規制基準に基づいた安全審査中、8基は未審査という状況だ。

原子力規制委員会資料より

新規制基準とは1F事故を受けて2013年5月に新たに策定された安全性審査の基準で、1F事故以前には不十分だった地震・津波等の大規模自然災害、航空機衝突等の重大事故対策などが盛り込まれた。新規制基準では全電源喪失頻度が1万年に1回以下と定められており、地震や津波が来ても1F事故などの過酷事故に発展しないような対策や、航空機衝突などのテロ対策も取られている。

九州電力資料より

加えて、30年以上前に建設された原発施設についても、最新の知見に基づいて策定された新基準を満たさなければ運転停止または再稼働ができない「バックフィット制度」が導入された。これは、新たにできた法律で過去の行為を裁かない「法の不遡及の原則」の例外にあたり、複数の原発が長期間運転停止状態になっている(審査が長引いている)所以でもあるだろう。

安全審査には3〜6年を要する    

今年7月に原子力規制委員会が公表した新規制基準適合性審査状況によると、新基準審査中が15基となっている。しかし、これが許可済となったからといって再稼働が可能というわけではない。新規制基準審査がどういうものか、原子炉等規制法をもとに見ていこう。

 

新規制基準適合性審査の流れ

0 適合性審査の申請書提出
1 設置変更許可

原子炉の基本設計や方針を審査

・平和利用目的であること

・原子力の技術的能力と経理的基礎の有無

・重大事故防止と事故対応能力, 原発運転能力の有無

・新規制基準ガイドラインに適合(地震, 津波, 竜巻, テロ, 航空機衝突など)

2 設計および工事計画の認可
原子炉の詳細な設計と工事計画が設置変更許可に適合しているか審査
3 保安規定認可
運転管理の審査
4 使用前事業者検査
設計工事計画通りに工事が行われ, 新規制基準の要求を満たしているか検査
5 原発立地地域住民の同意

一般的に「◯◯原発が新規制基準に合格した」という報道の真意は、1の設置変更許可が出た(書類審査が通った)ということであり、再稼働への第1関門をクリアしただけで、これから工事の計画を立てていくことを考えると道半ばなのが実情だ。既に再稼働した10基の安全審査を振り返ると、申請書提出(過程0)から使用前検査(過程4)終了までに3〜6年かかっている。また再稼働のためには安全審査だけでなく、原発立地地域住民の同意を得ることも忘れてはならない。

7月の参議院議員選挙後、岸田首相が年末までに最大9基の原発再稼働を目指すとしたが、その実は定期検査で運転停止中の再稼働済原発を検査完了後に稼働開始させるということだ。さらに再稼働に向けた安全審査は、行政や電力会社等とは独立した存在である原子力規制委員会が実施するものであり、政治家の一声で変わるものではない。

審査によって“安全”は保証されるのか?

日本で再稼働している原発は、このような厳しい審査を乗り越えてきた。一方で、政府は安全性を大前提にするとしているが、原発に限らず科学技術には“絶対的な”安全性を保証することはできない。一般的に「安全である」とは、「その危険性が社会通念上容認できる水準以下であること、危険であっても人間の管理下に置いている状態であること」と考えられており、自動車や飛行機などの交通機関、医療技術や医薬品、食品、巨大建築物など様々なものに対して適用されてきた。

原発再稼働と聞くととかく不安になってしまうが、最新の科学的知見に基づいて行われている安全審査について、一般市民の私たちもよく知っておく必要がある。

(冒頭の写真はイメージ)