書評『Digital for Good』

デジタルは「パーパス」のために活用されるべき

デジタルは、企業経営、社会、人々の生活に大きな影響を与えた。金融の世界でも、フィンテックをはじめ、デジタルを契機とした変化が訪れて久しい。しかし、それは企業を、社会を、人々の生活を、また地球環境をよくするために使われてきただろうか。

昨今、サスティナビリティを意識した「パーパス」経営が重視されている。時代の恩恵であるデジタルを、「パーパス」即ち、様々な社会問題を解決し持続可能な未来を創出するためのために活用されるべきだと著者のクリス・スキナー氏は言う。

本書では、金融業界を牽引する世界各国の組織やフィンテック企業のトップマネジメントのインタビューや寄稿を交えて、「パーパス」経営にどのような問題意識を持ち、実践をしているかを語っている。また、国連、ホワイトハウス、世界銀行のアドバイザーを務め、大学やフィンテック業界への影響のみならず、児童作家でもあるユニークな著者が、2030年からの視点で過去を振り返ったり、2040年の社会を物語風に描いたりした寄稿も面白い。

金融機関が存続するために必要なこと

滅びゆくといわれている地球と野生生物を前に、金融サービスは「滅び」と「前向きな展望」の仲立ちができる。そのために銀行が変わらなければならない。

自身がコミットできる「パーパス」に向けて、仕組みを変革して、維持しながら新しく生まれ変わらせていく。銀行は、顧客、従業員、社会、地域社会、政府、国、地球などのステークホルダーを前に、行動を起こさなければならない。

実際に、デジタル化はここ十数年、世界の金融包摂の問題を解決してきた。銀行口座を持てなかった人々が、現金の貸借や物の交換による過大な費用の支払いや詐欺にあう可能性から回避させてきた。また、デジタルは、サプライチェーンを透明化して持続可能な調達を可能とし、必要な人に支援が届いているのか慈善事業の成果を透明化することができる。

例えば、中国の決済サービス「アリペイ」を提供するアント・グループは、決済アプリで「アント・フォレスト」というゲームを展開している。アント・フォレストでは、車を使わず徒歩で移動したり、リサイクルや持続可能な製品を選んだりするとポイントが増え、それが仮想的な木に成長し、ある程度たまると、実際の植樹に繋がるという仕組みを運営しており、国連の賞を得ている。また、農業融資の判断に衛星画像解析を使い、作付けや成長状況を元に素早く融資判断できる仕組みを作り、融資が届きにくい農村部への包摂を進めている。

2040年の未来社会における人と銀行の関係性

2040年の社会。大学生のレオンは、20歳になってどの銀行を使うかを悩んでいる。今や全ての決済はデジタルで、彼が持っている現金は誕生日に父からプレゼントされたコレクターズアイテムだけだ。銀行は人生をサポートするパートナー・バンクとなっていて、地域、学生、年代に合わせたサービスを受けられる。銀行は、平和でより良い世界を実現するための仲介役としての役目を果たしている。各々が自分の人生の価値観と、その目的に合った銀行を選ぶのだ。

あなたの企業の存在意義は何だろうか?社会にとって、世界にとって良いことのために存在しているのか、そうでなければ、従業員や顧客は離れていき存在することができなくなるだろうと著者はいう。

急速に変化しているデジタル世界で、「パーパス」のために考え、行動していくための企業に変化する必要があるだろう。

『Digital for Good』
著者:クリス・スキナー
発行日:2023年3月9日
発行:きんざい

(冒頭の写真はイメージ)