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なぜ、そこが首都になったのか? 書評-『首都の地政学』

「首都はその国の象徴である。」本書は、歴史ライターである著者が、各国の首都に託された静かな思いを、地政学の観点から読み解いている。

現在、日本の首都は東京であるが、歴史を振り返ると、奈良時代や平安時代、室町時代など長い間その中心は畿内の主要な都市である奈良や京都であった。畿内きないは常に、西方の大陸を意識していたし、時に貢いだり交易したり、相手国の制度を取り入れたりしながら、新しい文化を日本の地に育んできた。そして江戸幕府によって築かれたのが新しい首都・江戸だった。江戸は、長い戦乱の世を終え、それまでのしがらみから抜け出して、新しい時代を建設していこうとした時に見出したフロンティアだった。

中国も今でこそ首都は北東部に位置する北京であるが、歴史的には唐代までは長安(西安)・洛陽といった内陸地に人も経済も集まっていたし、そこが中華思想の中心地であった。異民族との戦いが激しさを増す中で、徐々に存在感を増していったのが北方勢力に対する武力の砦、つまり中国北部の防衛拠点となっていた北京だ。その後、北京は東南部の南京に対峙する首都としての地位を確立していったのだ。

その他、ドイツのベルリン、イギリスのロンドン、インドのニューデリー、韓国のソウルなど、いずれも各国の首都は、その国の地理的な中心には位置していない。その背景には、地続きとなっている隣国に対する危機意識があり、過去の繁栄への憧れがあるのだという。

例えば、ドイツの首都は東の端に位置しているベルリンだが、そこには、19世紀の大ドイツ帝国時代の中心に位置したベルリンという象徴への思いや、東欧への影響力を広げたいという思惑が現れているという。中心をどこに選ぶかという思惑は、EUNATO(共に本部はベルギーのブリュッセル)といった共同体においても現れるだろう。

首都をどこに置くか、その思惑は各国それぞれだが、その時代に応じて、首都としての国の顔をどこに向けるかで、国や世界の運命が変わってくるのだろう。

『首都の地政学』
著者:内藤博文
発行日:2023830
発行:河出書房新社 

(写真はイメージ)