
進化する植物工場 研究がもたらす生産性向上だけでない副産物
今年、東京大学から発表された農学系の研究成果を概観すると、植物工場での生産技術の飛躍が目覚ましい。今まで栽培できなかった野菜ができ、かつ屋外の畑で作るより栄養価が高まる可能性もある、といったことが示され、植物工場の新たな可能性が見えた。
新たな人工光源で光エネルギー変換効率を最大化
植物工場で野菜生産に使われる人工光源はLEDが主流だったが、赤色レーザーダイオードを光源とすることで、植物の光合成と成長を飛躍的に促進できることが初めて明らかになった(研究成果「レーザーの光で育てる未来の野菜」)。赤色レーザーダイオードはLEDよりも波長帯が極めて狭く発光する特性があり、その波長帯光を植物の光合成色素であるクロロフィルのピークに一致させることで、光エネルギー効率を最大化できる。赤色レーザーダイオードは小型かつ軽量で発熱が少ないため、植物工場内の空間効率や自由度を高めると共に、植物への熱ストレスの軽減が期待される。
養液膜栽培でエダマメの生産が可能に
これまで、人工光型植物工場では葉物野菜の生産がメインだったが、エダマメの安定生産をすることに成功した(研究成果「畑を超えたエダマメ栽培」)。養液膜栽培(NFT)という液肥の入った水を常に循環させ、そこに植物を植える栽培方法でエダマメを栽培した場合、茎や葉の生長が旺盛になった。また、露地栽培のエダマメより収量や品質が良くなるということも明らかになった。
LEDでトマトの安定栽培も
従来、トマトなどの果菜類は光を多く必要とするため、LEDのみでの栽培は困難とされ、植物工場で生産する場合も太陽光を取り入れる施設が多かった。しかし、LEDを使用して気温と光強度を安定的に供給し、季節変動を完全に排除した制御環境を構築して栽培された大玉トマトは健全に生育し、温室栽培よりも果実中のビタミンCの含有量が多くなった(研究成果「大玉トマトがLED植物工場で育つ時代へ」)。
また、ミニトマトも多段式のラックに茎を水平に曲げながら誘引していき、側面からもLEDを当てる方法を開発した(研究成果「世界初!LED植物工場で“甘くて栄養価の高いミニトマト”の安定生産に成功」)。これにより、果実の糖度が向上するとともに酸度が適度に抑えられ、まっすぐ上に伸ばして栽培したトマトよりも甘味と酸味のバランスが良くなった。
植物工場研究がもたらす副産物
限られた空間の中で、人工的に屋外と同じ環境をつくり出すのはあまりにコストがかかるため、露地栽培で野菜を育てたほうが手間もコストもかからないことは明白だった。近年の植物工場での植物栽培の研究によって野菜の生産性が向上したが、成果はそれだけにとどまらない。限られた空間と状況下で植物を育てるという研究は、植物の生理や生態などより根本的な分野の解明につながり、新たな栽培方法の可能性が見えてくることがある。近年ではスペースシャトル内や月面基地など、地球とはまったく違う環境での植物栽培も、植物工場研究を通して実現できると期待されている。今まで葉物野菜が主流だったが、トマトやエダマメの生産が可能になれば、またほかの野菜の栽培も可能になるだろう。時代の変化と共に、植物工場の進化も楽しみにしたい。
(写真はイメージ)

