
[書評]『ダークツーリズム入門』 忘れてはならない歴史を訪ねる旅
「ダークツーリズム」とは、悲劇の現場へ実際に足を運び、その出来事を知ったり、考えたりするという旅行のスタイル。1996年にイギリスのグラスゴー・カレドニアン大学の教授だったジョン・レノンとマルコム・フォーレーによって提唱された新しい観光の概念だ。本書では実際に現地に足を運んだ複数の執筆者が、日本をはじめ、世界各国のダークツーリズムスポットを31カ所紹介している。
ダークツーリズムのスポットは、近代に通じる問題を含んでいる場所が対象であるため、戦争の遺跡だけではない。本書では、広島の原爆ドームやポーランドのアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所だけでなく、日航ジャンボ機の墜落現場となった群馬県の御巣鷹の尾根や、多くの奴隷が命を落とし現在も坑夫が潜り続けるボリビアのポトシ銀山など、事故や貧困の現場についての内容も収録されている。
ダークツーリズムの目的は地域の闇を暴くことではない。その社会の悲劇の記憶を後世に残すこと、また影の側面から対象に接近することで、対象についてさまざまな見方をしようとする試みである。また、もともと「負の遺産」の記憶の継承に関しては、政治的左派の影響力が強かった。しかし2000年代以降、政治的スタンスと関係なく、「悲劇をどう継承するか」という、本質を正確に伝えるためのしくみ自体が追求されるようになっている。
実際に現場を目の当たりにするというリアルな体験は、インターネットやテレビ、本の中だけでは十分に得ることはできない。音、匂い、日差し、景色、空気感など、現地でなければわからないことがある。各スポットについては、写真やアクセス情報も掲載されている。本書を手がかりに現地を訪れることで、忘れてはならない歴史と向き合ってみたい。
『ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅』
編者:風来堂
発行日:2017年9月29日
発行:イースト・プレス
(写真は御巣鷹の慰霊の園)

