2016年の花粉症 シーズン前の対策(4)~根治療法

連載1、2回目の記事で、花粉症発症の仕組みやタイプの違い、セルフケアの方法について紹介し、そして3回目となる前回は対症療法について詳しく紹介してきた。今回は「根治療法」について、皮下・舌下免疫療法や、コメを使った新しい治療法を紹介したい。

 
<抗体の性質を利用「皮下免疫療法」>

花粉症が免疫システムの誤作動によって発症していることから、そこに働きかける治療法もさまざまに研究され、一部は臨床で応用されるようになっている。

連載2回目で紹介したとおり、花粉症は「抗原抗体反応」だ。この抗体の正確な名称は、「特異的IgE抗体」という。「特異的」というのは、スギ花粉ならスギ花粉とだけしか反応しないという具合に<反応する相手が決まっている>抗体という意味である。この抗体は、一度に大量の抗原(=スギ花粉)にさらされるときに作られる。

一方、少しずつ抗原を体内に摂取すると、体内に特異的IgE抗体ではなく、「IgG抗体」という別の抗体が作られる。IgG抗体は、抗原が体内に入ってきた時に、抗原より先に、特異的IgE抗体に結合し、くっいて、抗原と特異的IgE抗体が結合するのを邪魔する。このメカニズムを利用することで、アレルギーの発症を抑えることができる。それが皮下・舌下免疫療法だ。

ところが、皮下注射で抗原を投与する皮下免疫療法は1960年代から行われているが、一般化はしなかった。というのも、最初は毎週1~2回の注射を1~2か月間続け、その後、毎月1回の注射を3~5年続ける必要があったからだ。それだけ投資しても、IgG抗体のでき方は、人によってかなり差があり、花粉症では50%ぐらい(研究報告により差はある)である。効果があるかどうか、治療してみないと、効果の判定ができない。さらに、少量とはいえ、体内に抗原を注射するので、アレルギー反応を起こすこともある。
 


<痛くない治療「舌下免疫療法」>

何とか注射の痛みだけでも免れないかと研究が進められた結果、2014年に舌下免疫療法が保険適用となり、注目を集めている。スギ花粉から抽出した成分で作ったシダトレンという液剤を、舌下(舌の裏)に滴下する。舌下に保持したまま2分間そっとしておき、その後に飲み込むという方法である。第54回日本鼻科学会総会・学術講演会で、湯田厚司氏(ゆたクリニック院長)らは、2015年のスギ花粉飛散ピーク時の臨床効果を検討した結果、「皮下免疫療法に比べて、効果はやや劣るが、内服薬や点鼻薬を用いた治療に比べると有効な可能性がある」と報告している。
 

<ご飯を食べて治療「スギ花粉症緩和米」>
毎日食べるコメに花粉症治療効果をもたせるという研究がある。花粉には、抗原決定基(エピトープ)というものがある。エピトープとは、花粉の表面にある、10~20個ぐらいのアミノ酸がつながったもので、抗体が花粉を異物であると認識するために必要な部分である。いくつかあるエピトープの一つだけでも体内に入ると、体は花粉が入ってきたと錯覚する。この仕組みを利用して、エピトープを食事から毎日摂取することで免疫療法が行えるというわけだ。どんな食材にエピトープがあっても良いが、免疫療法が効果を上げるためには時間がかかるので、毎日食べる食材としてコメが適している。

しかし、このようなコメは自然にはできない。遠藤朝則氏(東京慈恵医大耳鼻咽喉科)と高野誠氏(農業生物資源研究所)らは、遺伝子組み換え技術を使って、エピトープを含む米を作ることに成功し、「スギ花粉症緩和米」と命名した。複数のエピトープが体に入ってしまうことになる花粉全部を使う現在の免疫療法と比べると、一つのエピトープしか入れることができないスギ花粉症緩和米の方が、体に対しての負担や副作用が少なく効果の高い治療法となると期待されている。

マウスにこのコメを食べさせる実験を行った結果、普通のコメを食べさせているマウスよりも、花粉症を引き起こす抗体を70%減らす効果があることが確かめられた。研究はさらに、カニクイザルを経て、人間の花粉症患者が食べて安全性に問題がないか、効果があるかを検証する段階に来ている。今後、作物として栽培する時に、他のイネや作物に影響を及ぼす恐れがないか、また、普通のイネと区別して流通させることが可能かなどについても、研究が進められる予定である。
 

注:情報のご利用にあたっては、必ず主治医と相談したうえで、自己責任でお願いいたします。情報利用の結果、問題が発生しても、責任を負えないことをご了承ください。
 

(写真はイメージ)

参考記事
常識を覆す花粉症治療?! コメで免疫療法

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