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体細胞を幹細胞へと戻す、動物と植物で共通の遺伝子を発見か

体細胞を幹細胞へと戻す、動物と植物で共通の遺伝子を発見か

基礎生物学研究所の長谷部光泰教授らは、コケ植物「ヒメツリガネゴケ」の研究で幹細胞化を誘導する遺伝子を発見した。さらに、その遺伝子が、哺乳類のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を誘導する遺伝子の1つと同じグループであることも分かった。体細胞を幹細胞へと戻す、動物と植物で共通の遺伝子を発見した可能性がある。この成果は27日に国際学術誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に掲載された。

動物でも植物でも、受精卵が分割しながら、いろいろな性質を持った細胞に分化(特殊化)することで体が出来上がる。いったん特殊化した細胞を受精卵のような幹細胞に逆戻りさせることもできる。哺乳類では、近年可能になったiPS細胞を作る方法が挙げられる。一方、植物は枝や葉を土に挿しておくだけで切り口の細胞から幹細胞ができ、新しい根や芽が作られる。このように、植物は動物よりも幹細胞化する能力が高いことが知られている。動物と植物はそれぞれ独立して進化してきたことから、これまではそれぞれ異なった仕組みで幹細胞が作られると考えられてきた。

研究グループは、植物の低温ショックドメインタンパク質(CSP)遺伝子の進化に注目し、ヒメツリガネゴケのCSP遺伝子がどこで働いているかを調べていた。この遺伝子末端に蛍光タンパク質の遺伝子を導入して解析したところ、予想外に、葉の細胞が幹細胞に変化する際に発現していた。また、幹細胞になった後も発現し続けることを見つけた。

さらに、遺伝子系統解析の結果、このCSP遺伝子は哺乳類の幹細胞化を誘導するiPS因子の一つであるLin28に最も近縁の遺伝子であることを発見した。動物細胞においてiPS細胞を形成するには、京都大学の山中伸弥教授らの手法ではOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4つの遺伝子を用いており、米国ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授らの手法ではOct3/4、Sox2、Nanog、Lin28の4つの遺伝子を用いている。これらiPS因子のうち、Lin28以外の遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog)は、植物のヒメツリガネゴケと小葉類「イヌカタヒバ」の遺伝子には存在しないことから、動物と植物に共通の幹細胞誘導因子は、今回発見したCSP/Lin28のみの可能性が高いことも分かった。

今後、CSP遺伝子の機能を詳しく調べることで、動物と植物の幹細胞形成の共通性と多様性が明らかになることが期待できる。また、なぜ植物は動物よりも幹細胞化しやすいのかという、より根源的な疑問の解決にも寄与できるのではないかと考えられている。

画像提供:基礎生物学研究所

 
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