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法律家の目でニュースを読み解く! オウム事件と死刑執行に見る、死刑制度が維持される理由(2)

法律家の目でニュースを読み解く! オウム事件と死刑執行に見る、死刑制度が維持される理由(2)

EUではすでに死刑が廃止されており、米国でも死刑廃止を選択している州が増えていること、また韓国ではすでに10年以上死刑が執行されていないことは前回述べました。こういった世界の流れと逆行するように執行された、今回のオウム事件首謀者および実行犯に対する死刑。これが何を意味するのかをさらに見ていきます。
 

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの
最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

死刑制度維持は民意の反映

日本ではなぜ、死刑制度が堅持されているのか? これには何より、民意として死刑制度を支持する声が多いという現実があります。結局のところ、死刑制度の維持は立法政策の問題であり、支持する声が多ければ維持されることになります。「国際的な流れだから死刑制度を廃止しよう」という声もありますが、世論や政党支持率を気にする政府の動向を見ればわかるとおり、国民の大多数が死刑制度を支持していれば、政府があえてこれに反して死刑制度を廃止することは、まったくもって想像しがたいのが現状です。

2014年度に実施された政府の世論調査によれば、死刑制度の存廃については、80%以上の人が「死刑もやむを得ない」と答え、「死刑は廃止すべき」はわずか10%以下、「わからない、一概には言えない」という意見と合わせても、20%に満たないという結果でした。死刑制度を存続する理由としては、「死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」「凶悪犯は、また同じような犯罪をする危険がある」「死刑を廃止すれば、凶悪犯罪が増える」といった回答が用意されていましたが、複数回答でいずれの回答も45%から55%くらいの該当率でした。「その他」や「わからない」は合わせても2%くらいであり、これらの回答結果に、死刑制度存続の理由が集約されていると考えて差し支えないと思います。
 

感情論が支配的な死刑論議

「凶悪犯は、また同じような犯罪をする危険がある」というのは仮釈放なしの終身刑の導入などで解決できる問題です。また、「死刑を廃止すれば、凶悪犯罪が増える」という回答については、事実かどうかは死刑廃止前後の犯罪率の調査などである程度検証が可能と考えられますが、根拠となる有意なデータは提供されていません。一方で、死刑廃止国でも日本以上に凶悪犯罪の発生率が低い国があること、死刑廃止前後でも凶悪犯罪の発生率が変わらない国があることなどは、データによって証明されています。

日本において死刑存続が支持されている理由は、単純に「死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」といった応報的な感情論が支配的であるように思えます。やや乱暴な言い方をすれば、「冤罪えんざいで死刑になる人たちが多少いたとしてもやむを得ないだろう」と考えるほど、その感情は強いということなのでしょう。

しかし、実際にオウム真理教の起こした事件の被害者や被害者遺族の方々が、死刑囚全員の死刑を望んでいたかといえば、必ずしもそうではないようです。最終回の次回は、被害者遺族の言葉に注目してみたいと思います。(続く)

(写真はイメージ)
 

参考記事
法律家の目でニュースを読み解く! オウム事件と死刑執行に見る、死刑制度が維持される理由(1)(2018/07/12)
死刑執行に対し、EU・スイスなどが共同声明を発表(2018/07/09)