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法律家の目でニュースを読み解く! オウム事件と死刑執行に見る、死刑制度が維持される理由(1)

法律家の目でニュースを読み解く! オウム事件と死刑執行に見る、死刑制度が維持される理由(1)

オウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫ら7人の死刑囚の死刑が7月6日に執行されたことが報道されました。松本死刑囚らは1995年に引き起こした地下鉄サリン事件などの罪に問われ、すでに死刑が確定していました。今回の件をきっかけに巻き起こっている死刑制度をめぐる論議と、なぜ日本では死刑制度がなくならないのか?を見て行きたいと思います。
 

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの
最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

死刑執行の時期を予測させた慣例

刑事訴訟法では、死刑の執行について「確定から6カ月以内」と定められていますが、今回の件では死刑判決から約12年もの間、松本死刑囚らの死刑は執行されませんでした。これは、共犯者のいる犯罪の場合、「共犯者の裁判が続く間には死刑を執行しない」という慣例のためでした。したがって、今年2月に最後のオウム真理教関連の裁判が終結した時点で、松本死刑囚らはいつ刑が執行されてもおかしくない状況ではありました。また、今年3月14日には、松本死刑囚以外の死刑囚が各地の拘置所に移送されたことも報道されました。共犯犯罪での死刑執行については同時にされるのが慣例です。そして、1つの拘置所で1日に行える死刑執行の人数は2人程度までであることから、「死刑囚の移送があるということは、近い将来に刑が執行されること」と予想できました。当時、法務省は「移送と執行は関係ない」としていましたが、実際には移送から4カ月たたないうちに、死刑が執行されたことになります。
 

先進国のほとんどがすでに死刑を廃止

今回の死刑執行をきっかけに、死刑制度そのものを維持している日本の司法システムを批判する声明が諸外国、国際機関、および人権団体などから上がっています。実は先進工業国と言われる国の中で、いまだに死刑制度を存続しているのは日本、韓国、米国のみなのです。このうち韓国はすでに10年以上死刑執行を停止しており、事実上死刑を廃止しています。また、米国は連邦としては死刑を維持しているものの、州別でみると死刑を廃止、または事実上廃止した州と、死刑を存続させている州の数は拮抗しています。単一国家として死刑制度を維持している日本に対しては、国際的な非難の声が非常に強く、松本死刑囚らの死刑執行後、欧州連合(EU)およびその加盟国などから「いかなる状況下でも極刑の使用に、強くまた明確に反対する」旨の声明が発表されています。国連人権高等弁務官事務所や国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどからも死刑執行に対して批判的な声明が発せられています。また日本国内でも、日本弁護士会や各地の弁護士会が死刑執行を非難する声明を発表しています。

死刑制度そのものに対して批判的な立場からは、以下の指摘が繰り返しなされています。
・死刑は、非人道的で、残酷である。
・死刑には、犯罪抑止力がない。
・死刑は、刑罰の目的である矯正教化の効果を持たない。
・死刑は、不可逆的であり、冤罪の場合取り返しがつかない。

それにもかかわらず、なぜ、日本は死刑制度を維持しているのでしょうか。次回はこれについて掘り下げていきたいと思います。(続く)

(写真はイメージ)