「日本一の給食」から学ぶ食のあり方【GWに読みたい本】

「日本一の給食」から学ぶ食のあり方【GWに読みたい本】

北海道置戸町おけとちょうに「日本一の給食」がある。毎日違うメニューを出し、1年を通じて同じメニューを2度出さないように心がけているという。また、作る相手が子どもだとしても、子ども用にアレンジしない「本物」の味を提供する。食べ物本来の味を子どもたちが、五感すべてを使って味わう感覚を身につけられるように、食材の調達から調味料まで徹底的にこだわっている。たとえば置戸町名物と言われるカレーは、香味野菜と小麦粉、19種類のスパイスをじっくり炒めて練り上げたルーを、冷蔵庫で3週間かけて熟成させてから使うというこだわりよう。手作りルーと、複数のソース、しょうゆ、トマトピューレなど数種類の調味料を使ったカレーは、大人の舌にも本格的な辛さで、複雑で深みのある本物の味だ。

同書の著者であり、この「日本一の給食」を手がけた佐々木十美とみさんは、名寄なよろ女子短期大学栄養学科(現・名寄市立大学)を卒業後、1972年から置戸町立学校給食センターに栄養士として勤務した。定年退職した今も置戸町に住み、「食のアドバイザー」として活動しているほか、料理講習や講演で全国を飛び回っている。

この給食が生まれるようになったきっかけは、実は何か特別なプロジェクトがあったわけではない。いつもの給食のあり方から、少しずつ食材や調味料を吟味しているうちに、いつしか日本一の給食に発展していったのだという。

大量調理の給食で、よい食品を追求するには相当なコストがかかるのではと思うが、置戸町の給食費は一食あたり二百数十円と平均並み。近隣の町と食品を共同購入し、カレールーやトマトピューレなど作れるものは手作りする。手間をかけることで上手にやりくりしているのだそうだ。「子どものためなら手間ひまは惜しまない」が置戸町の給食作りのモットーだ。

置戸町は北海道の真ん中よりやや北東、北見市の南西に位置し、山々に囲まれた緑豊かな町。人口は3千数百人ほどで、空気も水もおいしい。畑作や酪農、林業がさかんで、じゃがいも、たまねぎ、ヤーコン、メロン、豆、ビートなどの特産品がある。このような自然豊かな環境も手伝って、滋味豊かな給食づくりが実現した。

いつしか「給食の母」と呼ばれるようになった佐々木さんの言う「本物の味」とは、添加物や化学調味料が入っていない素材本来の味。そしてその味を出すために、極力旬の食材を使うことにこだわっている。みそは北海道産の大豆、米こうじ、塩を使って冬の間に仕込み、3年熟成したものを使う。トマトピューレは置戸の契約農家で無農薬栽培されたものを、夏から秋のはじめにかけて1年分まとめて作る。初夏に山で採れたフキは塩漬けにして冷蔵し、煮付けやみそ汁に使う。これらのことを可能にできたのは、調理員をはじめ、一緒に作業をする保護者や地域の人々の協力があったからこそだという。

佐々木さん自身が、子どもたちと一緒に給食を食べて気づかされたことも多いという。市販の「シチューの素」を使うのをやめて、手作りのホワイトルーでつくったシチューを食べられない子どもがいた。グルタミン酸などが入った「シチューの素」の味に慣れてしまい、もの足りなく感じたのだ。それでも佐々木さんは、以前の味に戻そうとはしなかった。そうすると少しずつ、子どもたちも手作りの味に慣れていったという。

栄養価のあるものをしっかり食べるということ自体が危うくなっている昨今、子どもたちには栄養の知識はもちろんのこと、自分で調理するすべを教えたいと語る佐々木さん。

2005年、食育基本法の制定によって、学校給食は「食教育」という義務を担うものであることが明文化された。栄養士の角田八重子氏は、「命こそ、人間にとって大切なもの。その命を養うことは、自分にふさわしい食べ物を選ぶ力を備えること。その力をつける給食が教材としてふさわしく、給食を食べる体験を通して食生活を学ぶ」と給食の本来あるべき哲学を語っている。

このような給食作りは置戸町以外でも、東京都を始めとして徐々に全国に広まっている。東京23区では化学調味料を使用せず、子どもたちの苦手な苦味と酸味を、かつお、昆布、しいたけ、鶏がらなどの出汁で旨みに変えて調理をしているという。

私たちの体は私たちが食べたものでつくられる。毎日食べる食事がどれほど大切なのか、この著書は教えてくれる。「食」のあり方を、学校給食を通じて学べる貴重な一冊だ。
 

書誌情報
『日本一の給食 「すべては子どものために」おいしさと安心を追求する“給食の母”の話』
著者:佐々木十美
発売日:2013年6月25日
定価:本体1400円+税
発行:学研パブリッシング

(参考)この著書は、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」制作班の協力のもと出版された。

(冒頭の写真はイメージ)