リカバリーカルチャーって何? (番外編)田代まさしさんのケースが示す、リカバリーのいばらの道

薬物依存性と向き合う(前編)田代まさしさんに「一部執行猶予判決」

芸能人の違法薬物にまつわる事件が相次いで報道されています。違法薬物の場合、犯罪性の部分が強くクローズアップされますが、「なぜ薬物の使用を繰り返してしまうのか?」という依存症の病理についても、本来もっと広く知られるべきであると専門家は指摘します。アルコール依存症の専門医である、垣渕洋一先生にお話を伺いました。

解説:垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医

 

編集部)3月4日、違法薬物所持で4回目の逮捕をされたタレントの田代まさし(63)さんの公判が出ました。田代さんは自宅で覚せい剤を使ったなどとして、覚せい剤取締法違反(所持、使用)と大麻取締法違反(所持)の罪に問われ、仙台地裁で懲役2年6カ月、うち懲役6カ月を保護観察付き執行猶予(求刑懲役3年6カ月)とする判決を受けました。今回の判決をどのように見ますか?

垣渕)現行の法制度の枠組みの中で最大限、当事者の回復を後押しする判決内容だと評価できます。ただ、世界の潮流は薬物依存症者の非犯罪化です。今後のさらなる法と制度の改正を期待します。
 

編集部)今回の判決は「一部執行猶予制度」にのっとったものですね。新しい形です。

垣渕)2013年の改正(2016年6月1日施行)前の刑法では、刑の言渡しの選択肢として、全部実刑か全部執行猶予のいずれかしか存在しませんでしたが、犯罪者の再犯防止・改善更生を図るためには、施設内処遇後に十分な期間にわたり社会内処遇を実施することが有用な場合があると考えられたのです。
今回の場合、懲役2年の実刑の後に残りの6カ月の刑期の執行が猶予され、執行猶予期間は「再犯すれば収監」という緊張感の中で再犯防止・改善更生を促すというものです。

近年、薬物使用等の罪を犯した場合の再犯防止が重要な課題となっています。これに対し、新たに「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(略称「薬物法」)が制定されて刑法の特則として定められています。つまり累犯者であっても、一部執行猶予が言い渡されることが可能となったことが背景にはあります。
 

編集部)違法薬物の場合、所持すること自体に犯罪性があります。しかし、拘禁や懲役刑を受けることによって本来受けるべき治療が断絶してしまったり、または薬物の売人が近づいてくる環境に置かれてしまうのだとしたら、懲罰の形も考慮されるべきではないでしょうか?

垣渕)考慮されるべきだと思います。米国では、一生の間に1回でも違法薬物を使う人の割合は、全国民の48%(大麻含む)ですが、日本の場合には1~2%程度です。このため日本の場合、厳罰主義でよいと司法当局も世の人々も考えてきました。
しかし、覚せい剤取締法違反によって刑務所に服役する人の累計服役年数の平均は年々延びています。これは、同じ人が再犯を繰り返して逮捕され、そのたびに服役期間が延びていることによって生じているものです。これが50歳以上になってくると84%が再犯というデータがあります。なぜこのような事態が生じるのでしょうか。それは、彼らが薬物依存症に罹患しているからで、「自分の意志の力」だけでは簡単に薬物を絶つことができない状態に陥っているからです。
 

編集部)それならば刑務所や保護観察所といった司法機関で、しっかりと薬物依存症に対する治療プログラムを実施すればよいのでしょうか。

垣渕)もちろん、司法機関でのプログラムは大切です。しかし、覚せい剤依存症の人が一番薬を使いやすいのは刑務所を出た直後で、次に多いのは保護観察が終わった直後なのです。縛られている状態にいる時は、外圧もあって断薬する動機が持続しやすいのですが、縛りがなくなった瞬間にその気持ちが緩み、薬にまた手を出してしまいがちです。かといって、そういう人たちを永遠に刑務所に入れて監視下に置くというのも量刑としてのバランスにかけるし、そもそも非現実的です。
後編に続く

(写真はイメージ)
 

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