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法律家の目でニュースを読み解く! 司法の危機 書き加えられた「内閣による定年延長」

法律家の目でニュースを読み解く! 司法の危機 書き加えられた「内閣による定年延長」【前編】

政府が定年間近の黒川弘務東京高等検察庁検事長の勤務期間を、内閣の閣議決定により半年間延長した件は波紋を呼び、国会での議論は拡大する一方で収まる気配がありません。

内閣が無理筋の解釈変更を押し通そうとしていることは前回解説しましたが、ここへ来て政府与党は、もともと本国会に提出予定の定年延長などを含む国家公務員法改正と同時に検察庁法の改正を行うことで、黒川氏の定年延長を合法化しようとしていることが明らかになりました。ことの詳細を、元検事の三上誠さんに解説いただきます。

解説:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

編集部:黒川氏の異例の定年延長と合わせて、検察官の定年延長を可能にする法改正案の提出はタイミングがよすぎます。

三上:さすがに意図が露骨すぎる法改正案に対して3月6日の自民党の総務会でも、黒川氏の定年延長をめぐる閣議決定について、「官邸による人事介入だ」「三権分立を脅かす」「99%の国民がおかしいと思っている」などと異論が噴出し、了承が見送られたと報道されています(最終的には3月10日に了承されました)。
 

編集部:この検察庁法改正案は、急に浮上したものなのでしょうか?

三上:この点について、3月9日の参議院予算委員会で野党が追及したところ、法務省や人事院が少なくとも昨年11月時点で準備していた検察庁法改正案には「内閣による定年延長」は盛り込まれていなかったことが明らかになっています。ということは10月末の森雅子法務大臣着任後、本国会提出までの間のいずれかに、検察庁法改正案の内容が訂正されたことになります。通常国会に提出される法案は、事前に内閣法制局の審査などを経なければならず、11月時点でおおむね内容は固まっているものであり、その後に突然内容が変更追加されることはあまりありません。

さらに驚くべきことに、本国会に提出された検察庁法改正案は、安倍晋三総理大臣が解釈変更をしたと強弁している1月以後に提出されています。内容は、この解釈変更に合わせて変更されたものとなっています。すなわち、以下のような内容が突然追加されました。このような法律案の変更は、繰り返しますが、法律の一般的な成立過程においては極めて異例なことです。少し長いですがその一部を引用します。

検察庁法第22条
5項 内閣は、前項の規定にかかわらず、年齢が六十三年に達した次長検事又は検事長について、当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事又は検事長が年齢六十三年に達した日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事又は検事長に、当該次長検事又は検事長が年齢六十三年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる。
6項 内閣は、前項の期限又はこの項の規定により延長した期限が到来する場合において、前項の事由が引き続きあると認めるときは、内閣の定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して一年を超えない範囲内(その範囲内に定年に達する日がある次長検事又は検事長にあっては、延長した期限の翌日から当該定年に達する日までの範囲内)で期限を延長することができる。
7項 法務大臣は、前二項の規定により次長検事又は検事長の官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした次長検事又は検事長については、当該期限の翌日に検事に任命するものとする。ただし、第二項の規定により読み替えて適用する国家公務員法第八十一条の七第一項の規定により当該次長検事又は検事長を定年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。
8項 第四項及び前項に定めるもののほか、これらの規定により検事に任命するに当たって法務大臣が遵守すべき基準に関する事項その他の検事に任命することに関し必要な事項は法務大臣が定める準則で、第五項及び第六項に定めるもののほか、これらの規定による年齢六十三年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定及び延長に関し必要な事項は内閣が、それぞれ定める。

 

編集部:新たに追加された内容を読む限り、次長検事または検事長の定年延長は「内閣」がその妥当性を認めれば可能になるということでしょうか?

三上:これについて、3月16日の参議院の予算委員会で制定趣旨を問われた安倍総理は、「法務省が決めた」「判断は適正になされていく」と繰り返しました。「露骨に検察人事に介入するものではないか」「こういう法案を提出すること自体が疑惑隠しではないか」と問われると、「法務省が人事は適切に判断する。政権で検察人事に政治的な意図をもって介入することはない」「内閣法制局から説明された方がいいと思う。公務員法と合わせた。立法技術的なことで入っているだけです」などと回答しました。しかしこれは露骨な責任転嫁というほかなく、国民の理解を得られる説明とは言いがたいです。

内閣法制局がこのような短期間で法令を改訂することはありえません。このような改正を志向したのは明らかに現内閣であり、法務省が改正案を主導したというのはだれが見ても詭弁でしょう。
後編に続く

(写真はイメージ)