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法律家の目でニュースを読み解く! 司法の危機 書き加えられた「内閣による定年延長」

法律家の目でニュースを読み解く! 司法の危機 書き加えられた「内閣による定年延長」【後編】

黒川東京高検検事長の「定年延長」が背景にあると見られる検察庁法改正案。前回に引き続き元検事の三上さんに、この法改正における問題点について解説いただきます。

解説:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

編集部:黒川氏の定年延長については、現行法の解釈を変更する立法事実、背景となる社会的な事実関係の説明がないことが指摘されていました。

三上:解釈変更と上記の検察庁法改正に共通するものですが、昨年11月あたりから検察庁法改正案が本国会に提出されるまでの間に「どのような社会情勢の変化があって、検察官の勤務延長(定年延長)が必要になったのか」という質問が、3月7日の参議院の予算委員会の質疑の中で、野党統一会派から森法相に対して出されました。

これに対して森法相は法令変更の理由として、「例えば東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から、市民が避難していない中で最初に逃げた訳です。その時に身柄拘束をしている十数人の方を理由なく釈放して逃げた訳です。そういう災害の時も大変な混乱が生じるかと思います」などと理解に苦しむ回答をし、委員会は紛糾することになりました。森法相は後に発言を撤回しましたが、野党から審議拒否の上、閣僚辞任を要求される事態になっています。安倍総理は、3月12日にこの答弁について、森法相を厳重注意したと発表しましたが、問題がそれで解決するわけではありません。
 

編集部:質問の答えになっていない上、発言内容が不適切だと言われています。

三上:「現行法の解釈を変更する立法事実、背景となる社会的な事実関係」について政府与党が答弁を拒否していることと合わせて、それだけまともに答えることができないから、このような苦し紛れの答弁が出てきてしまうのではないでしょうか。
 

編集部:現行法の解釈変更と、新たな法改正が通れば、黒川氏の検事総長就任への障害はなくなるのでしょうか?

三上:実は黒川氏が検事総長になるためには、もう1つ法令上の問題があります。人事院で公開されている公式資料で、国家公務員の「勤務延長」(定年延長)について、勤務延長を行うことができる例として挙げられているのは「名人芸的技能を要する職務」「離島その他へき地官署等に勤務」「大型研究プロジェクトチームの主要な構成員」であり、東京高検検事長はどれにも当たらないのは明らかです。

さらに留意点として勤務延長は「『当該職務に従事させるため引き続いて勤務させる』制度であり、勤務延長後、当該職員を原則として他の官職に異動させることができない」と明記されていることが注目されます。

つまり、黒川氏が検事総長になるには、わざわざこの点も解釈を変えなければならないことになるのです。
 

編集部:しかし安倍内閣は2月18日に閣議決定した答弁書で、「(黒川氏を)検事総長に任命することは可能である」としています。

三上:改正法案をよく見てみると、これについても前記改正後の第8条で、結局内閣が定めることができるような巧みな設計になっているのです。

これだけいくつもの解釈変更や法令変更を重ね、過去に一度もなかった高等検察庁検事正の定年延長を行うのですから、本来納得のいく説明がされてしかるべきです。それが現在に至るまでまったくなされておらず、それができない理由もほとんどあからさまに知られています。
 

編集部:今回の一連のことで、日本の司法は瀕死の状態にあるとも言われています。

三上:これに対する法曹界の危機感は相当であり、大阪弁護士会、静岡弁護士会を始めとする弁護士会、法律家9団体、若手弁護士の団体などが次々に声明を発表しています。また、全国の法務・検察幹部が集まる会議の場で静岡県検事正が「今回のことで政権と検察の関係に疑いの目が持たれている」「国民からの検察に対する信頼が損なわれる」「検察は不偏不党、公平でなければならない。これまでもそうであったはず」「この人事について検察庁は、国民に丁寧な説明をすべき」という異例の発言を行なったことが報道されました。
 

編集部:このような事態が好転する見通しはあるのでしょうか。

三上:この結論を覆すにはもはや内閣が閣議決定を覆すほかなく、自浄作用が期待できないなら内閣の顔ぶれが変わるしかないという難しい局面にあります。新型コロナウイルス問題に国家が一致団結して立ち向かわなければならない時に、本当に悩ましい限りですが、その原因は野党にではなく、森法相にですらなく、まぎれもなく安倍政権にあります。

主権者である国民一人一人が無関心でいてはいけない問題であることを、あらためて強調させていただきます。

(写真はイメージ)
 

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