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法律家の目でニュースを読み解く! 木村花さん事件の4つの問題点① 問われる番組制作の姿勢(前編)

法律家の目でニュースを読み解く! 木村花さん事件の4つの問題点(2)問われる番組制作の姿勢(後編)

リアリティ番組の「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが自殺した件について、番組制作側として「やらせ」があったのではないかと責任を問われたフジテレビが内部調査結果を発表しました。それによると、番組内のすべての言動は基本的に出演者の意思によるものであること、制作側が出演者に対して「やらせ」に当たるようなことを強要したことはないとあります。果たしてこの「内部調査」は信用に足るものだと言えるのでしょうか。

解説:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

内輪で行われた問題検証

フジテレビの内部調査結果において問題視されるべき点は、この調査が第三者による検証を事実上拒絶してなされたものだったということです。7月31日に発表された、その内容の一部を以下に抜粋引用します。

●検証にあたっては、社内関係部門を横断するメンバーを選任して担当させました。
●関係者の聞き取りを行い、関連する記録、資料等の確認を行いました。また、本番組の出演者ならびにその所属事務所の関係者への聞き取りも行いました。
●更に、有識者として、検証過程には弁護士にも参加して頂き、検証方針の設定、検証項目、検証方法の確認を行うとともに、検証内容について意見を頂きました。また検証項目のうち出演者のケアについては精神科専門医、SNSへの対応についてはインターネット上の誹謗中傷対策の専門家から、それぞれ意見を頂きました。

これを読むと、一見専門家からお墨付きをもらったかのように見えますが、検証方針の設定や方法などについては「弁護士の指導を受けた」とは言うものの、フジテレビが選んだメンバーが聞き取り調査や資料の確認を行い、検証した内容についてそれぞれ専門家に意見をもらった、というものにすぎないことが分かります。つまり、一番肝心な事実確認を行う聞き取り資料の確認が、第三者によって行われていないのです。また、この弁護士などの専門家が誰なのか、フジテレビとどのような関係なのかも明らかになっていません。
 

不十分な真相解明への姿勢

被害者が亡くなっていて証言ができないからこそ、関係者からの事実確認は慎重に行う必要があります。それにもかかわらず、このような加害者側の立場にあるともいえるフジテレビが一方的に内輪で行った調査では、聴取対象となった制作スタッフ、出演者、木村さんの所属事務所の役員、マネージャーが、利害関係にかかわりなく誠実な証言をできたとは到底考えられません。フジテレビに不利な証言は、報告から漏れているのではないかという可能性を否定できません。

第三者委員会を設置して、フジテレビから独立した外部弁護士による事実調査をなぜしなかったのかについて、フジテレビは以下のようにコメントしています。
「事実調査について、これを詳細かつ迅速に進めるためには、外部の独立委員のみの第三者委員会では、調査対象である番組関係者等が、発言を控えたりする懸念があり、積極的な証言を促すためにはむしろ、番組制作の事情に通じた社内の責任者らを中心とした内部調査が望ましいと考えました」

しかし、どう考えても逆ではないでしょうか。調査対象である番組関係者等が社内の責任者たちの前で、いわば自分の雇い主であるフジテレビに都合の悪いことが言えるとは想像しがたく、仮に話したとしても事実が隠蔽いんぺいされたり捏造ねつぞうされたりする可能性が著しく高いというのは、裁判上の法則を持ち出すまでもなく常識でも分かることです。

「さらに、検証における聞き取りの対象となる制作スタッフや出演者の中には、木村花さんが亡くなったことに強いショックを受けている者が複数名おり、外部の独立委員による聞き取りを行った場合、過度な精神的負荷を強いることが懸念されるとともに、却って適切な証言を得られなくなる可能性もあると考えました」

そのような懸念があるのであれば、第三者委員会がこれを踏まえて調査を行えばいいだけのことであり、問題を起こした側であるフジテレビになおさら調査を任せるべきではありません。

被害者の遺族である木村さんの母親がBPOに訴えを提起したことを表明したのは、フジテレビの検証結果が発表される前でしたが、このような調査過程を見れば、到底フジテレビ内部では真相究明が期待できないのは明らかです。
 

「ネットでバズる」という広告バリュー

またこの問題の背景として、近年の広告事情の大きな変化も無縁ではありません。電通が今年3月11日に発表したところによると、日本の総広告費のうちインターネット広告費の総額は2兆1048億円で、1兆8612億円のテレビメディア広告費を初めて上回ったことが明らかになりました。

こういった事情を背景に番組制作側は、テレビで視聴率がとれるかどうかだけでなく、どれだけインターネット上で番組が話題になるか、いわゆる「バズるか」を、重要な広告効果の指標にして番組制作をするようになります。

フジテレビの報告書によると、Netflixの配信日のテラスハウス全体のインターネット上での話題量は1日に6000~8000件程度であるのに、木村花さんが炎上するきっかけになった事件の回が配信された3月31日は、2万2421件を記録したことが分かります。通常の3~4倍もの広告効果のある回だったからこそ、再配信の際にも「テラスハウス最大の修羅場」と煽りながら配信されたわけで、当然「ネット上での話題度」というばく大な広告効果が意識されていたことは明らかでしょう。このことにまつわる疑問は、突き詰めて解明する必要があるのではないでしょうか。

このように「バズる」ために過剰な演出をする、そのために契約に不当な条項を入れ、さらに「やらせ」演出に対する視聴者の認識の齟齬を巧みに利用していたのだとしたら、このことに対する番組制作側への厳しい非難は免れないでしょう。

事件のこの側面について、BPOの審査を中心に続けてよくみていきたいと思います。
(続く)
 

法律家の目でニュースを読み解く! 木村花さん事件の4つの問題点(1)問われる番組制作の姿勢(前編)

法律家の目でニュースを読み解く! 木村花さん事件の4つの問題点(3)プラットフォーム事業者の問題

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