アザラシによる観測で、海氷に覆われた南極沿岸の海洋環境を調査

極地研究所と北海道大学は12月27日、南極・昭和基地でウェッデルアザラシに水温塩分記録計を取り付けて調査を行った結果を発表した。その観測データから、秋に外洋の海洋表層から暖かい海水(暖水)が南極大陸沿岸に流れ込んでいること、また、その暖水を利用することでアザラシが効率よく餌をとっていたことが明らかになった。

南極沿岸にはペンギンやアザラシなど大型動物が多く生息しているが、それを可能にする要因の一つとして、外洋の深層から栄養塩に富んだ暖水の流入があるのではないかと予想されていた。しかし、南極沿岸には定着氷と呼ばれる陸から一続きとなって容易に動かない海氷に覆われた海域が広く存在し、厚い氷のために船で海洋調査をすることが難しかった。

研究チームは、南極・昭和基地周辺に生息するウェッデルアザラシにCTDタグという最新の水温塩分記録計を取り付け、これまで未知だった秋期から冬期の沿岸の海洋環境を計測することを試みた。CTDタグは位置情報、塩分と水温、潜水深度を記録して、そのデータを衛星通信で送信する。重量は580gでアザラシの体重(平均326kg)に比べて十分軽くて負荷は少なく、アザラシの体毛の抜け替わる時期には体毛とともに脱落する仕組みになっている。

2017年の秋(3~4月)から春(9月)にかけて8頭のアザラシにCTDタグを取り付け、うち7頭から最長で約8か月間の十分な量のデータを得た。それによると、低温低塩分の水が観測期間中に観測海域全体で見られ、高温高塩分の水が秋から冬にかけて、深い海底谷など限られた海域の深い深度で見られた。高温低塩分の水が秋に沿岸の多くの地点の浅い深度(100~150m)で見られ、時期が進むと共に最大400mまで沈み込んでいた。アザラシは低温低塩分の水と比べて、高温低塩分の水や高温高塩分の水でより効率的に餌を取っていた。

さらに、この高温低塩分の水の由来を風向風力を使ったモデル計算によって詳しく調べると、秋に沿岸を西向きに吹く風が強まることで、外洋から沿岸に向けて表層を流れる流れが強まり、さらに一部の海水は下の方へ潜り込むような力が特に強まっていたことが示唆された。南極沿岸を取り巻く外洋側の暖かい水には、ナンキョクオキアミなどの餌生物が生息していて、このような餌生物が高温低塩分の水とともに秋に外洋側から風の力によって沿岸へ運ばれてきて、ウェッデルアザラシが効率よく捕食しているものと考えた。

この研究によって、南極沿岸域で秋に強まる風の力によって、外洋の表層から海水と餌生物がもたらされている可能性を初めて示した。今後は、その海水と餌生物の量の推定につなげ、南極沿岸の海洋生態系のより詳しい仕組みを解明していくとしている。

画像提供:極地研(冒頭の写真はイメージ)