海底下の極限環境微生物の高い代謝活性を解明 JAMSTEC

海洋研究開発機構(JAMSTEC)は26日、地球深部探査船「ちきゅう」により採取された地温120℃までの堆積物に生息する微生物の代謝活性調査の結果、海底下深部の堆積物に生息する微小な(超)好熱性微生物群集が、表層から浅部にかけての冷たい環境よりも10~100倍の高い代謝活性を維持していることがわかったと発表した。この研究結果は英科学誌「Nature Communications」に1月26日付け(日本時間)で掲載された。

これまでの研究によって、地球表層の約7割を占める海洋のその下に膨大な微生物から構成される海底下生命圏の存在が明らかになっている。それらの海底下微生物が生息するのは、太陽の光が直接届くことがなく、栄養源の供給が極度に少ない超低栄養状態の極限環境だ。そのため海底下微生物の多くは、陸や海水などから供給・埋没した有機物や、微生物の遺骸の分解物をリサイクルするなどして自らの体(DNAやタンパク質)の損傷を修復しつつ、数百年から数千万年にわたる生存を可能にしていると考えられる。それらの微生物の活動が地質学的時間スケールで集積することにより、天然ガス・メタンハイドレートなどの資源形成や地球規模の元素循環にとって重要な役割を果たしている。

海底には新たな堆積物が降り積もり続けるため、ある時に海底面だった地層は時間の経過とともにより深く埋没していき、深くなるにつれて温度が高くなっていく。冷たい海洋底の堆積物に生息する微生物が微弱な代謝活性を保ちながら長期生存状態になったとしても、時代の経過とともに深部に埋没して、上昇していく生息環境の温度に対してどのように対応しているのか、そしてなぜ生命が海底下深部の高温環境で存続しうるかについては不明だった。

研究グループは、2016年に実施された国際深海科学掘削計画(IODP)「室戸沖限界生命圏掘削調査:T-リミット」で採取された試料を用いた。これは地球深部探査船「ちきゅう」を用いて高知県室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の水深4776mの海底(1.7℃)を、深度1180m(120℃)まで掘削して得られたものだ。これらの試料を現場に近い温度(40℃、60℃、75℃または80℃、95℃)で一定期間培養して、メタン生成反応や嫌気的メタン酸化反応、硫酸還元反応などの微生物代謝の量を測定した。その結果、深さ400m以深・55℃以上の深度区間において、(超)好熱性微生物群集による代謝活性は、それよりも浅い深度区間に比べて10~100倍程度高い細胞当たりのメタン生成や硫酸還元の代謝活性が認められた。これは海底下深部の高温堆積物環境で生命機能を維持していくには、表層から浅部にかけての冷たい堆積物環境よりも多くの代謝エネルギーを必要としていることを示している。また、代謝活性の値よりこれらの微生物は理論上の生命限界に近い極限的な状態の下で維持・存続しているものと推測された。

研究グループは、今後も海底堆積物やその下に存在する広大な海洋地殻内環境(岩石圏)における生命圏の時空間規模や限界を追究するとともに、極限環境における生命機能の維持・修復と長期生存を支える分子生物学的なメカニズムや、それらの微生物の適応・進化プロセスに影響を与える外的・内的要因の解明を目指すとしている。

「室戸岬沖限界生命圏掘削調査」の掘削サイトC0023における堆積物の温度・地球化学・細胞数・微生物代謝活性を示す深度プロファイル
微生物代謝活性測定の結果に基づく一細胞・1日あたりの炭素転換率(左軸)と細胞骨格(バイオマス)に含まれる炭素のターンオーバー時間(右軸)を温度(下軸)に対してプロットした図

画像提供:JAMSTEC(冒頭の写真はイメージ)

 

参考記事

深海掘削で海底下の微生物の実態を解明 海洋研究開発機構など(2020/12/07)