異なる文化環境下でメロディーが類似化する過程を解明 慶応大

慶應義塾大学は4日、日本と英米の民謡162曲のメロディーを分析して、民謡のメロディーは変化を伴う系統を通じて進化し、分子遺伝学用に開発された配列解析アルゴリズムを用いて文化的環境に応じて予測可能な変化をすることを発見したと発表した。この研究は学術誌「CurrentBiology」に3日に掲載された。

人類史の研究者が現代の文化の多様性を理解するために進化論に注目するようになってきている。しかし、文化的変化のプロセスが異なる社会でどのように進むのかは明らかになっていなかった。

慶應義塾大学環境情報学部のパトリック・サベジ准教授らの研究チームは、民謡に着目した。民謡には音楽的に進化しながらも、長い時間をかけて個人間で繰り返し伝わる変わりやすいものだという特徴がある。同研究チームは、日本と英米民謡の音楽を分析することで、異なる文化環境においてメロディーが類似した進化をたどるかどうかを調査した。

研究チームは、「スカボロー・フェア」や「ソーラン節」などの有名な民謡を含む162 曲(英米民謡4125 曲、日本民謡5937 曲)のメロディーセットを五線譜の文字列に変換して遺伝子配列に類似した音列を作った。これによって本来は分子遺伝学用に設計された配列解析アルゴリズムを使用できるようになった。

これにより328組の関連性の高いメロディーを特定し、録音間で曲がどのように変化したかを観察、その情報を進化のパターンに反映させた。その結果、曲のリズムに重要な役割を果たす音符は、純粋に装飾的な音符よりも変化しにくく、また曲の最後の音符とそれに次いで強調された音符も変化しにくいことがわかった。それに対して強調のない音符や装飾的な音符は最も変化しやすかった。

また、音符は変化するというより追加されたり削除されたりする傾向があったが、これは演奏者(歌い手)が装飾音を自由に追加・削除・置換することはあっても、旋律全体を形作る音符は変更しないことが多いということ反映している。音符が置換される場合は隣り合った音符同士の置換が多かった。

このように異文化間で規則性のあるパターンが広くみられることから、変化するときにいくつかの制約を受けるという文化システムがあることが見受けられた。研究チームは運動的制約と認知的制約の2つが有力なメカニズムであると提唱している。運動的制約とは、演奏者の物理的な限界により、音と音の間で変化が起こるとき近くの音に変化が起こりやすいこと。認知的制約は音程、音価、知覚に関して演奏間の小さな差異に気づきにくいことだ。

これらの発見は、創造的な芸術形式が、生物学、遺伝学、その他の文化的領域で見られる同様の進化的メカニズムに制約されていることを示している。今後は認知過程と運動過程が旋律の進化に与える相対的な影響や、音楽演奏におけるミクロレベルとマクロレベルの過程の相互作用を探っていくとのこと。

芸術文化の進化を視覚的に表現したもの(上図)。遺伝子進化と旋律進化における置換、挿入欠失 (インデル)、非臨界変化の関係性を例示している(下図)

画像提供:慶応大(冒頭の写真はイメージ)