書評『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』

書評『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』

今日、3月11日は東日本大震災から丸13年を迎える日だ。今年は元日から能登半島で大きな地震が発生し、日本中を驚かせた。家屋の倒壊による犠牲者も多く、地震発生時、建物からいかに早く外に出るかによって生死が分かたれた。一方で、地震直後、避難所となる学校のカギが開いていなかったり、家族が多いため避難所に行くことを躊躇し、農業用のビニールハウスで一時的に生活を送る被災者の姿も報道された。他にも、道路が寸断し避難所に行けないなど、地形的な条件から避難所へ避難できない人々もいた。自然災害の直後、自宅やその周辺で過ごさざるを得ない事態について考えさせられる地震だった。

本書は、今後の災害時には分散型の避難が前提になるという考えに基づき、自宅で避難生活をする「在宅避難」のノウハウを紹介する防災図鑑である。コロナ禍を経て、避難所での過密状態や衛生面の悪化を避けるため、できる限り分散して避難をした方が良いという考え方が広がっている。そのため、物資支援や他人に頼ることなく、自分で避難生活を送るための備えを本書では手ほどきする。例えば、災害時のトイレに関しては、成人女性が1日に排出する尿1200ccを吸い取ってくれる物としてペットシートや新聞紙を紹介している。さらにその場の状況に応じて、段ボールやバケツなど、あるものを材料に簡易トイレを作る方法を提示する。また、水害、地震、火山の噴火などの災害種別ごとに、どういう被害があり、何に気を付ける必要があるのかが丁寧に説明されている。ほとんどの説明がマンガなので、用意すべきものが視覚的に理解しやすく、登場人物の表情などから実際の状況が想像しやすくなっているのも特徴だ。

各市町村などで配布される防災マニュアルには、避難場所や避難時に持っていくべきものは書かれている。しかし、避難所にそれらを持って行かなかった場合と持って行った場合で実際にどう違うのかや、簡易トイレを作ったあとの臭いやゴミについての問題などはイメージしにくい。本書はそれらのより現実的な問題に焦点を当てて、「あなたはどれを備えるのか?」と読者へ問いかける。

本書を読むと、被災した経験の無い読者は備えるべきものが多いと感じるかもしれない。しかし、あとがきで著者はこのように述べている。

私達は、自動車に乗る時、当たり前のように、シートベルトを締めます。
それは、交通事故に遭った時、シートベルトが自分の命を
守ってくれることを、知っているからです。
「交通事故」と「自然災害」って似ていませんか。
自分には、起こらないかもしれない。
でも、もしかして、遭うかもしれない「災難」。(中略)
この本には、半径5メートルの、自分でできる
「防災のシートベルト」を詰め込みました。

自分の身に起こるかどうかわからない交通事故。それでも起こった時に備えて命を守るためのシートベルトをするように、起こるかどうかわからないけれども遭うかもしれない自然災害に備えて、身近なところでできる準備をしていきたい。

『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』
著者:草野かおる
発行日:2021年9月5日
発行:飛鳥新社

(写真はイメージ)