レアメタル不使用のリチウムイオン電池正極材料を開発 北大など

北海道大学、東北大学、名古屋工業大学は26日、レアメタルを用いない鉄を主成分としたリチウムイオン正極材料を開発したと発表した。材料にシリコンやリンなどを導入して高エネルギー密度と高サイクル寿命の両立に成功した。この研究成果は米化学会誌に掲載された。

リチウムイオン電池は様々な携帯機器に用いられるとともに、電気自動車用の大型蓄電池としての需要が拡大している。現行のリチウムイオン電池の正極材料にはコバルトやニッケルなどのレアメタルが使用されているが、需要増大とともに資源枯渇や資源偏在性が深刻な問題となってきている。これらの課題を回避するためにレアメタルフリーな素材を用いての正極材料の開発が重要である。

同研究グループでは、リチウム、鉄、酸素からなるレアメタルフリーの正極材料の研究開発を進めてきた。研究グループはリチウム鉄酸化物Li5FeO4に着目した。この材料は鉄と酸素のレドックス(酸化還元)反応の両方を利用できるという利点がある。

一方で、この材料にはサイクル特性が悪いという課題があった。充電時に酸素の酸化反応が進行するが、これが過度に進行すると固体中の酸素が分子まで酸化されて、気体として放出されてしまい元に戻らない。サイクル特性を向上するためには、充電の際に競合して起こる酸素脱離反応の抑制が必須だった。

今回、同研究グループは、酸素脱離反応を抑制するために材料へ新しい元素を導入することを試みた。用いたのは、酸素と強く共有結合をすることが知られる周期表の13-18族のpブロック元素で、LiやFeと容易に置換ができる。Li5FeO4のFeの一部をアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)、硫黄(S)の元素に置換した材料を合成した。

合成材料を評価したところ、酸素レドックス反応の容量維持率が50%から最大90%に大きく向上した。特に、酸素レドックス挙動はシリコンを導入した材料が最も性能が高く、鉄のレドックス反応も合わせた正極全体のエネルギー密度ではリンやゲルマニウムを導入した材料が高い性能を示した。正極の性能や元素の資源性を考慮すると、シリコンやリンの導入がレアメタルフリー正極材料の高性能化に有効であると考えられる。

今回の研究によって、同グループはレアメタルフリーな正極材料の創出に貢献できたとし、今後はさらなる要素技術開発による長期サイクル化を目指していくという。また、この技術は、リチウム空気電池など他の次世代リチウムイオン電池開発技術にも展開可能であり、研究進展による低炭素化社会、地球温暖化対策への貢献が期待できるとしている。

*参考:

上記は、リン導入による酸素脱離反応の抑制挙動の解明。(a)実験的に充電反応時の酸素発生量が減少することを確認した。(b)計算科学により酸素脱離反応がより起こりづらくなることを見出した。

画像提供:北海道大学(冒頭の写真はイメージ)