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【寄稿コラム】ドイツ―難民支援の現場から(5)-問われる「支援」の意味 無差別テロ事件が落とした影-

7月後半、ドイツ国内で不穏な無差別テロ事件が相次いだ。立て続けに起こったテロ事件のうち2つの事件の実行犯が、イスラム過激派思想の影響を受けたと見られる難民の若者だったことが社会に大きな衝撃を与えた。これを受けて、メルケル首相は急きょ夏休みを返上、7月28日にベルリンで記者会見に臨んだ。

メルケル首相は「難民受け入れ継続」を表明

「犯人は、異なる文化、異なる宗教の間に憎しみと不安を植え付けようとしている。我々はこれに対し、毅然として立ち向かわなければならない」

7月18日、バイエルン州ヴュルツブルク近郊の電車内で起こった事件では、17歳のアフガニスタン人難民の少年が斧で乗客を襲い5人が負傷。24日にバイエルン州のアンスバッハで起こった事件では、難民申請を却下され退去勧告を受けていた27歳のシリア人青年が、音楽祭会場近くで爆弾を爆発させて15人が負傷した。両事件とも、犯人は犯行後に死亡している。

「犯人は、彼らを受け入れた国、支援の手を差し伸べた人々、そしてこの国で平和に生きたいと願う、その他大勢の難民を嘲笑した」メルケル首相は強い言葉でそう述べた。そして、事件に対して治安強化などの新方針を打ち出したものの、「我々はこの歴史的役割を果たしていくことができる」として、難民受け入れ政策継続の意思を示した。

「メルケル首相の難民政策は失敗した」。エムニート研究所が実施したアンケート調査に、ドイツ人の57%がそう回答している。

難民支援の意味するものとは

相次いでテロ事件が起こったバイエルン州のアウグスブルクで、難民の子どもたちのために勉強を教えている小さなボランティアグループを訪れた。アフガニスタンやコソボ出身の子どもたちが、ボランティアスタッフに学校の宿題を見てもらっていた。後ろ姿ならOKと言われて子どもたちの写真を撮らせてもらったが、モデルになってくれた10歳の女の子は、自分の後ろ姿の写真写りをしきりに気にして、「お願い、もう1回撮り直して!」と何度も頼んできた。

【寄稿コラム】ドイツ―難民支援の現場から(5) -問われる「支援」の意味 無差別テロ事件が落とした影

「難民の子どもたちは、ドイツ語を覚えるのが本当に速い。この国で生きて行けるかどうかは、言葉ができるかどうかにかかっているからです」とスタッフのベアーテさんは話す。1週間に1度、会社勤めの後でボランティアをしているヴィクトルさんに、「子どもたちからカルチャーショックを受けることはありますか?」と聞くと「アラブ諸国から来た子どもたちって、お茶を飲む時ものすごく大量に砂糖を入れるんです。最初はそれに驚きました」という、のどかな答えが返ってきた。

ベアーテさんは、ドイツの難民政策について「『ドイツは、助けを必要としている人々に手を差し伸べられる国だ』と言ったメルケル首相の言葉に、私はキリスト教徒として同意します。戦火を逃れて国を追われ、過酷な思いをしてきた彼らに、人生を生きる希望をもってほしい」と静かに語った。

【寄稿コラム】ドイツ―難民支援の現場から(5)-問われる「支援」の意味 無差別テロ事件が落とした影

難民支援の現場を訪れていると、いくつかの基本的なことに気付かされる。それは、私たちは決して難民が「いい人たち」だから助けるのではないということだ。そして支援するということは、してあげたことに対する見返りを相手から期待することではない。そこにはある種の「無償の愛」がなければ成り立たないのだということにも。

次回は再び、ベルリンの難民宿泊施設を訪れてみたい。

[冒頭の写真]
パッサウの難民一時待機施設の様子

 
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