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タレントの飲酒事件からアルコール依存症を解説!(2)

タレントの飲酒事件からアルコール依存症を解説!(2)

タレントの山口達也さんの事件について、(1)リスク・マネジメント、(2)依存症、(3)性犯罪という3つの問題のうち、前回は1つ目のリスク・マネジメントについて取り上げました。今回は、2つ目の依存症と、3つ目の性犯罪について、専門医から見た視点で解説いただきます。

解説:垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医
ブラックアウトは依存症の特徴的な症状

 
医師は、診察せずに診断をしてはいけないので、ここでは診断はしませんが、本人の記者会見をはじめとする一連の報道を見る限り、山口さんが依存症である可能性は高いと言えます。まず、脳がアルコールにどのように障害されているのかを考えてみます。

会見での、「振り返ると2月12日にそういうことがあって、私はそれも知らずに、普通に仕事したのがすごく情けなくて」を、そのまま受け取ると、ブラックアウトを起こしていたようです。依存症でない人でも大量飲酒すると、飲み始めのことはハッキリ覚えていても、段々と記憶が曖昧あいまいになり、「どうやって帰宅したのか覚えていない」などということはあります。これに対してブラックアウトは、飲酒している時間の記憶が最初から最後まで完全に抜け落ちることで、脳が大きなダメージを受けた時に起きる症状です。ブラックアウトしている間、暴力、暴言、器物破損などをすることも多いのですが、本人はまったく記憶がないので深刻に反省できず、そのためさらに被害者の怒りを呼びがちになります。これは依存症の特徴的な症状のひとつです。
 

肝臓の数値は断酒すれば回復する、しかし…

次に、身体がどのように障害されているのかを考えてみます。山口さんは「肝臓の数値が高かったので、薬を飲んでいた」、「お酒の関係でちょっと体をこわして、1カ月入院していた」と話しています。大量飲酒を続けると、アルコールの作用で肝細胞が破壊されるアルコール性肝炎を起こします。採血検査では、γGTPガンマ ジーティーピーという項目の値が高くなるのが特徴です。男性では80以下が基準値(検査会社によって多少異なる)ですが、大量飲酒しているとこれが1000、2000、4000といった値になる場合があります。山口さんぐらいの40代半ばの年齢だと、断酒するとこれが2週間で半分の値に戻ります。1000で入院すると、2週間後は500、1カ月後に250ぐらいです。ただし、いくつ以下になったら退院できるのか、仕事に復帰できるのかは一概には言えません。
 

大量飲酒と断酒を繰り返すことの危険

大事なのは、γGTPが基準値まで低下しても、それは肝炎が治癒しただけであって、肝障害は治癒していないということです。細胞は再生力が強いので、断酒すればただちに再生が始まるのですが、その際、繊維細胞が一緒に出てきて、肝細胞を包み込みます。繊維細胞は、皮膚を作っている細胞です。外敵から身体を守るために固く、肝細胞に比べると白いです。繊維細胞が肝細胞を覆ってしまうと、栄養素や老廃物の流れが遮断され、肝細胞が機能を失います。これが進むと、肝繊維症という病名がつきます。肉眼で肝臓を見ると、ピンク色でプルンプルンとしていた肝臓が腫大し、変形し、白く、固くなります。肝繊維症は10年単位で断酒しないと、治癒はしないと言われています。

肝炎は重度になれば倦怠感はありますが、痛みはまったくありません。そのため、酒好きの人は、γGTPが基準値のうちは大量飲酒し、肝炎を起こしたら断酒する、ということを繰り返してしまうのですが、そうしていると次第に肝臓の繊維化が進行し、機能している肝臓の割合が60%、40%と下がってきます。しかし肝臓は毒が体内に入った時に備えて、予備力が大きい臓器なので、本人は気づかないのです。

そうしているうちに依存症になり、お酒が止められなくなった頃には、肝臓の機能はもともとの機能の20%を切ってしまいます。この段階になると、もはや断酒しても肝臓は機能を回復できず、身の置きどころがない倦怠感、意識障害、出血しやすいといった症状が出はじめ、病名が肝繊維症から肝硬変に変わります。肝硬変になると、断酒していても肝機能がどんどん低下していき、移植しなければ肝不全で死に至ることもあります。
 

自分自身と向き合い、リカバリー・カルチャーの先駆者に

山口さんはアルコール性肝障害で入院し、退院してすぐに飲酒しています。「飲み過ぎないようにとは、会社から昔から言われていました」と会見で述べていたので、おそらくアルコール性肝炎は何度も起こしており、今回も肝炎は治癒しても、肝障害は治癒していないだろうと考えられます。それにもかかわらず、すぐに飲酒していることから、病的飲酒欲求とアルコールコントロール障害があることがうかがえます。

病的飲酒欲求とは、自分の意志では抗えないような強烈な飲酒欲求のことです。そして一度飲酒を始めると、飲んでいる時間が長くなり量も増えてしまうことが、アルコールコントロール障害です。山口さんの「はい。入院していたし、お酒の量も控えるようにしていました」という会見での言葉から、「飲んではいけない」とわかっちゃいるけれど、飲んでしまっていた状況が浮かび上がります。

このように長年にわたり、かつ多岐にわたる飲酒問題が、周囲からの圧力にもかかわらず繰り返されていると、「依存症」という診断がつきます。

山口さんが依存症には至っていなかったとしても、問題飲酒であるのは確実なので、それをカミングアウトして専門医療機関での治療を受け、減酒または断酒に取り組むことを勧めたいです。そして、完全な断酒に成功して健康を取り戻したならば、ぜひその経験を世の中に伝えてほしいです。それによって、彼自身が「生まれ変わった」ことを知らしめ、日本に真のリカバリー・カルチャー(依存症から回復した人達が、社会的にも成功することを支援し、本人も開示して、後に続く人に希望を与える文化。依存症への正当な理解を推し進める効果も期待できる)を根付かせる先駆者となってくれることを心から願います。

最後に3つ目の性犯罪ですが、被害者に対して適切なトラウマ・ケアが行われていることを願ってやみません。また、同様の行為が過去にもあったなら、アルコールとは別にそのような行為の依存症があることを想定して、山口さんは加害者プログラムへの参加が必要となるかもしれません。

(写真はイメージ)
 
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