匂いの情報を規定する仕組みを解明 香りのデザインが可能に

匂いの情報を規定する仕組みを解明 香りを自由にデザイン

匂いが引き起こす情動や行動は、嗅覚受容体レベルでどのように規定されるのか――?一つ一つの受容体には「レモンのような香り」「バラのような香り」など、匂いの「質」が規定されており、活性化された複数の受容体が持つ情報が合算されて、そのバランスにより情動や行動が決まることが、東京大学の東原和成教授らの研究により、このたび明らになった。人間は約400個の嗅覚受容体を持っているので、それぞれに規定される匂いの「質」を明らかにすれば、その受容体をターゲットに求めるフレーバー(食品香料)やフレグランス(香粧品香料)がデザイン可能になるという。この研究成果は、14日(米国東部時間)に「ネイチャー・コミュニケーションズ」オンライン版で公開された。
 

嗅覚受容体と匂いのメカニズム

嗅覚受容体の数はマウスが約1100種類、ヒトは約400種類。一般に、1種類の匂い物質は複数の嗅覚受容体を活性化し、その情報は嗅球、脳へと伝わって、「好き」「嫌い」などの情動や行動を引き起こす。例えばオイゲノールという匂い物質は約45個の嗅覚受容体を活性化する。多くの匂い物質はマウスにとって「好き」でも「嫌い」でもない中立的なものだが、例えばオスマウスの尿に含まれているテトラデセノールという匂い物質は、メスマウスに先天的嗜好行動(「好き」)を引き起こすという。一方、キツネの糞に含まれているチアゾール系の匂い物質は、マウスに先天的忌避行動(「嫌い」)を引き起こすことが知られている。しかし、一つ一つの嗅覚受容体と匂いの「好き」「嫌い」の関係は、これまで明らかになっていなかった。
 

濃淡で「好き」が「嫌い」になる場合も

そこで東原教授らの研究グループは、比較的少数の嗅覚受容体だけを活性化する匂い物質であるムスコンとテトラデセノールに着目、嗜好行動の観察に適した「匂い選択嗜好テスト」を実施した。具体的には、ケージに2つの穴を空けてその穴から匂いを吹き出し、マウスがそれぞれの穴に興味を持って鼻を突っ込んでいる時間を測定した。また、嗜好と忌避行動両方の観察に適した「匂い探索行動アッセイ」という実験も行った。この実験では、匂い物質をケージの床に置き、興味を持って匂い物質を嗅いでいる時間を測定した。その結果、ジャコウジカの雄の鼠頸部の腺からの分泌物(ムスク)の主要な香気成分として知られるムスコンは、2種類のみの嗅覚受容体を活性化することが分かった。しかしその2種類の受容体を同時に活性化しても、またはそれぞれ単独で活性化しても、オスマウスに「好き」という行動を引き起こした。一方、テトラデセノールは3種類の嗅覚受容体を活性化するが、一番感度の高い受容体だけを活性化すると「好き」という行動を引き起こし、3種類全てを活性化すると「嫌い」という行動が起きた。一番感度の高い受容体を機能しないようにしたマウスでは、テトラデセノールへの嗜好行動は消えたが、忌避行動は残っていた。つまり、テトラデセノールの一番感度の高い受容体は「好き」の価値を持ち、感度の低い受容体は「嫌い」の価値を持ち、両方を活性化すると「嫌い」になることが明らかになった。これは、薄い濃度では良い匂いだが、濃くなると嫌になる現象を説明している。
 

匂いの価値と質の情報が可能にするもの

つまり、それぞれの嗅覚受容体には匂いの「価値(意味)」や「質」などの情報が規定されており、活性化される受容体の持つ情報の足し算とそのバランスで情動や行動が規定されていることがわかった。例えば、嗅覚受容体1)、2)、3)がそれぞれ「フルーティー」「甘い」「フローラル」といった匂いの質を規定している場合、嗅覚受容体1)と2)を活性化する匂いAは「フルーティーな甘い匂い」、嗅覚受容体2)と3)を活性化する匂いBは「フローラルな甘い匂い」を呈することになる。匂い物質AとBに共通する「甘い匂い」を呈するフレーバーは、嗅覚受容体2)を指標として開発できる。匂いが持つ価値や質の情報を規定する仕組みは今後、人間社会においてよりおいしい食品やより芳しい香粧品を開発するための新しい基礎的概念となり得ることが期待される。

(写真はイメージ)

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