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依存症専門医に聞く、変化の時代を生きる大切さ(2)うつ病にならないためには

コロナ禍での生活の変化の中には、依存症やうつになる危険性も潜んでいます。アルコール依存症専門医の垣渕洋一先生に、うつを予防するための対処法を7つ紹介していただきました。

垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医

 

(1)ストレスを感じるのは当たり前だと考える。

「感染したら、周囲の人に迷惑をかけてしまう」「仕事ができなくなったらどうしよう」「売り上げが減ってしまった」などと考えて不安や気分の落ち込みを感じると、自分を責めて一層、苦しくなることがあります。むしろこのような状況で不安や焦りを感じるのは、「自分のメンタルが特別に弱いのではなく、当然の反応だ」と考えましょう。コロナ禍は全人類が遭遇している災害であり、この状況において何の不安も感じない方が、特殊だと言えます。
 

(2)共感できる人と支え合う。

話をだれかに聞いてもらい、共感して受け止めてもらうだけでストレスは減るものです。ただし、各自の状況によって感じているストレスの種類は異なります。たとえば、巣ごもり消費によって売り上げが激増しているスーパーの従業員と、自粛でお客さんが激減したホテルの従業員では、共感しあうことは難しいでしょう。職場の同僚や、似たような職種の友人など、状況を共有できる相手との対話が効果的だと思われます。
 

(3)考えを「肯定変換」する。

筆者の体験を例にしましょう。新型コロナウイルスの流行は、医療者にとっては一見するとマイナス面ばかりです。感染者を受け入れることは、医療機関のスタッフや他の患者を感染の危険にさらし、感染対策の費用がかかり、他の患者の受け入れにも制限が生じるなど、経営的にはマイナスです。しかし筆者の勤務先では、医療機関の使命として受け入れを決断しました。

そしてそのことに対し、多くの人からの感謝、応援を受けました。医療関係者への感謝を表す「ブルーライトアップ」や、さまざまな方たちからのメッセージに励まされています。私の職場に、マスクを寄贈して下さった方もいます。患者さんからは「こんな状況でも診察してくれてありがとう。健康に気をつけて」といった言葉をいただきました。こういう経験は30年、医師として働いてきた筆者にとっても初めてのことで、思わず涙することがありました。医療財政の問題が、政府の財政改革の一環として論議されていますが、今回のことで医療というインフラの重要性が再認識される機会となっているのではないかと思います。

このようにマイナスのように思える状況もプラスに思考転換すれば、同じ状況も違って見えてきます。
 

(4)感謝の気持ち、人に対する尊敬の気持ちを持つ。

 
エッセンシャル・ワーカーという言葉があります。医療従事者もそうですが、人々が必要な物資や情報を手に入れ、移動し、安全に暮らすために、感染の危険がありながら日々、現場で働く人たちのことです。そういう人々がいてくれるからこそ、私たちの生活はコロナ禍でも成り立っているのです。

自分自身の置かれた境遇を顧みたときに、たとえ困難があったとしてもそこには必ず何か、感謝できることがあるはずです。当たり前のようにあるものや人への感謝と尊敬の気持ちを持ちたいものです。
 

(5)規則正しい生活をして、できるだけ体を動かす。

すでに仕事を引退していたり、自営業で自分自身の生活を管理してきた人たちに比べ、勤務先や学校に行くことで生活のリズムが守られ、運動量が保たれていた人たちは、外出の自粛、在宅勤務による生活習慣の悪化が目立っています。

運動不足と食べ過ぎで「コロナ太り」となる人、どんどん夜更かし、朝寝坊になっていくケースなどが挙げられます。体力が失われ免疫力が低下すれば、コロナどころか風邪にもインフルエンザにもかかりやすくなり、その上、うつにもなりやすくなってしまいます。

朝、太陽の光を浴び、日中は活動する。3食とも健康的な食事を摂り、間食は控える。夜はお風呂に入り清潔を保ち、ゆっくりと休む。こういった生活習慣は、コロナにかかる確率を下げると同時に、うつを防止することにもなります。
 

(6)情報を取捨選択し、分別する。

脳は、ポジティブなことよりネガティブな内容に敏感に反応します。また、未来についてネガティブに予想して外れるより、ポジティブに反応して外れる方が批判を多く受けます。そのため、大手メディアの報道も否定的な内容が多くなります。また、メディア報道においては、予測し報道したことへの検証がなされず、まちがっていた場合に謝罪もされないことが少なくありません。一方で、個人が自由に発信できるSNSでは玉石混交な情報が飛び交い、拡散されます。情報を鵜呑みにして煽られ、うつになってしまったとしたら、自分が損をするだけです。
 

(7)今だからできることを行って、明るい未来を予測する。

新型コロナは感染症なので、流行は必ず終息します。今だから集中してできることを見つけて勤しみましょう。この機会に在宅の時間が増えたことを生かす方法をいろいろと考えることができます。筆者は毎日出勤していますが、医学関係の学会、研修会は軒並み中止されており、飲み会もないので平常時より時間に余裕があります。自粛期間に入ってから、まず自宅の断捨離を行いました。その次は、積んでいるだけだった専門の書籍・文献を読むこと、専門誌に投稿する文章・書籍を執筆しています。流行が終息する頃にはそれらが出版されるという段取りです。
 

依存症専門医としては、これを機に日本の過剰な経済活動が修正されることに期待しています。人はいくら金持ちになっても、1日3回の食事が10回になるわけではなく、一度に身に着ける服が10着になるわけでもありません。すでにモノが豊かにあって人口が減少していくので実需は増えないため、そういう中でGDPを増やすためには、人々に過剰に消費してもらうしかないのです。こういった事情を背景に世の中では、ファッションや嗜好品、SNSやオンラインゲームなどが過剰に提供され、人々が「依存症」的な消費動向に陥るように促しています。実需だと5着あれば足りる服が、100着あっても、また欲しくなるようにプロモーションするのです。

今回、社会生活制限によって消費活動も自粛に向かい、楽しみが奪われて苦しんでいる人も多いはずです。この時期は、自分にとって本当に必要なもの、大切なものは何なのかを見直すことで、考えと行動を転換することができるチャンスです。過剰な経済活動が見直され、その分のマンパワーやお金が本来もっと使われるべきところに充てられ、依存症が減る未来を心から願っています。

(写真はイメージ)

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